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オレンジマイナスイオン(佐助)
昼間のカフェと夜のコンビニで同じ人物に会っていたことが判明した。気付いたのは昨夜、顔をあげたら目立つ橙色が視界に入った。珍しい色だと思っていたら一日に二度会っていた。

「いらっしゃいませ〜」

心地よい声色、私はいつもの菓子パンと珈琲を持ってレジへといく。今日はメロンパンだ、レジの店員さんはあの橙色で初めは他人の空似かと思っていた。

「‥ハイライト、ひとつ」

「はい」

黒いお気に入りの財布から千円札を出して渡す、このやりとりも何やら日常になりつつあった。橙色は‘猿飛’というらしい、名札に書いてあって袋を渡されてお釣りとレシートは財布にしまう。

「‥おねえさん」「?」

「土日は昼間のカフェでも会うよね?」

「え?‥ああ、‥‥え?」

「俺様さ、もうすぐ上がりなんだけど‥お茶でもどう?」

話し掛けられて驚いた。ぱちくりしていたら橙色はニッコリ笑っていて「待っていて」と言う。

「‥わたし、車なんだけど」

「うん、知ってる、俺様歩きだから乗せてって」

「調子いいわね」「えへへ」

いいよ、と言えば橙色は驚いた表情をしていた。断られる前提だったのか、目を真ん丸にしていた。
「まじで?」「断ってほしかった?」

「まさか!俺様大感激!」

必ず待っていてよ!と言われたから背を向けて手を上げる。車の中で煙草に火をつけて待っていることにした。

十分もすればトントンとガラスを叩かれる。顔をあげれば私服姿の橙色が手を振っていた。

「おまたせ!」「あら、お早い」

「てか、本当にOK貰えるなんて思わなかった」

「暇だったのよ、お茶って何処に行きたい?」

「んー‥特に」「じゃあ」

助手席に乗ってシートベルトを確認すれば車を走らせる。どこに?と尋ねられて「ファミレス」と答えた。

「嫌だった?」「ううん」

「奢るわ、夕飯まだだったら食べて」

「え?いいの?」「うん?」

「おねえさん、変わってるね」

「ありがとう、誉め言葉として受け取っとくわ」

「‥‥ほめてない」「あはは」

自宅近くのファミレス、お客さんは少なくて喫煙席にすんなりと通してくれた。

「名前、」「うん?」

「名前、教えてよ、おねえさん」

「ユエよ」「俺様、佐助」

「佐助くんか、可愛いね」

「おねえさんこそ、可愛い」

「嬉しくないなあ」「え?」

クスクス笑えば橙色はキョトンとしていた。取り敢えず、どうして声をかけてきたのかが気になっていた。適当に注文をした後で携帯を取り出してちらつかせる。

「俺様さ、ユエさんと友達になりたい、なって!」

「話したこともないのに?」

「いいじゃん、んー‥あれだよ、一目惚れに近いかも」

「じゃあ友達からね」「手厳しいや」

携帯を翳して赤外線で交換した。橙色は嬉しそうに笑って注文をした食事を消化していった。私はドリンクを取りに行ったり煙草に火をつけたりとメールチェックをしながら食事が終わるのを待っていた。

「ユエさん、食べないの?」

「お腹すいてないから、佐助くんは煙草大丈夫なの?」

「ん、吸わないけどね」「そう?」

橙色は珈琲を一口含んで満腹感に幸せそうだった。私は煙草をもみ消して「帰ろうか」と促す。

「え?」「明日もバイトでしょう?」

「えー!折角勇気を出して声かけたのに」

「‥いつ頃から気付いてたの?」

「えーっと、先月末ぐらいからかな?初めは他人の空似かと思ってたけどね」

「わたしもだよ、でも佐助くんみたいな色だと目立つからね」

「やっぱり?」

「でも私は気付いたの昨日」

「そっか、俺様いつ声かけようかドキドキしてたんだ」

「ふぅん、物好きね」

立ち上がろうとすれば橙色が寂しそうにテーブル隅っこの伝票を取った。私はキョトンとして「奢るよ」と手を伸ばす。

「まだ、いや」「わがままさんね」

「‥俺様、明日フリーなんだもん」

「あら」「だから帰りたくない」

「‥どこのオンナノコよ」

「だめ?」

「あああ、そんな目で見ないで」

弱いのよと首を横に振る、取り敢えず伝票を奪えば橙色はションボリしていた。お会計をして車に乗り込めばなかなか橙色は入ってこない。可愛いイケメンはこれだから仕方ないなあと車から降りて煙草に火をつければ橙色の隣に立つ。はふーと息を吐けば彼はビクッと背を震わせた。

「佐助くんは独り暮らし?」

「え?‥あ、ああ、うん」

「じゃあ、うちに来る?」

「え?」「嫌なら断りなさい」

「いやじゃないよ!でも‥いいの?」

「何か良からぬ想像をしているなら蹴り飛ばすけど?」

「しっ‥してない!してない!」

怪しい雰囲気がしたが橙色は嬉しそうに笑った。車に乗ってと言えば素直に聞いた。

まさか、知らない男を部屋に呼ぶハメになるとは思わなくて駐車場に車を止めてエンジンを切る。

「‥ユエさん、」「ん?」

「どうして我が儘聞いてくれるの?」

「断る理由がないからよ」

「ないの?」「ないわ」

変な人だねと橙色は笑う、この笑顔は好きかもしれない。あとは顔が良いからかもねと言えば「やっぱり?」と自信ありげに言う。

「お酒は?」「お構い無く」

「私は飲むよ?」「ご自由に〜」

鞄を掛けて、寝室の電気をつける。寝間着に着替えて髪を結いキッチンから酒を手にリビングを覗く。

「ユエさん、無防備」

「佐助くんもね、変なことしたら摘まみ出すよ?」

「え〜」「破廉恥するの?」

「正直、期待してた」「馬鹿ね」

それから、彼のバイトの話を聞いた。私の話も聞いてくれて、仕事柄溜まっていくストレスが緩和されていく気がしたのだ。

「佐助くんからはマイナスイオンが出てるみたい」

「なにそれ、ユエさん酔ってるの?」

「う‥ーん、わからないわ」

「ねぇ、ユエさん」

「なんでしょう、佐助くん」

「‥やっぱり、男を部屋に上げちゃうのは駄目だと思うよ」

「そう?」「‥‥うん」

立ち上がる橙色を見上げた。向かい合っていたソファから彼の姿はなくて、すぐ隣に立っていた。深く沈んでいた私はクスクスと笑う、橙色は酷く困惑した表情をしていた。

「だめ、だよ」

「ありがとう‥いい教訓になったわ」

「‥摘まみ出す?」「いいえ」

「じゃあ、許されるの?」

「軽いオンナと軽蔑するかな?」

「‥しないよ、ユエさんが嫌がっても、俺様とめらんないもん」

「正直な男は嫌いじゃないわ」


橙色のマイナスイオン


後悔はしない、でも、ソファは嫌だからベッドまで運んでと言えば橙色は軽々と私を抱き上げた。


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