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雫道(蘭丸)
通り雨の降る。
枯れた花に滴る雫を見つめるのは織田の武将、ユエだった。

「ユエさまー!」「蘭丸殿」

蘭丸はユエになついていた。紫の番傘をくるくると回していて、その姿は可愛らしい--そう言うと拗ねてしまうから言わないが--水溜まりに写る姿はまるで子供のようだ。

「どうして傘を忘れるんですか!」

「‥いえ、通り雨ですから」

「それでも!風邪を召されてしまうと濃姫様が心配なさってますよ!さ、戻りましょう?」

「‥通り雨が、好きなので」

もう少し見ていたいですと言えば、蘭丸は傍らに居た。どうやら付き合うらしい。

「まるで、罪を流してれるようで」

「罪を?」

「わたくしが異教徒と言うことはご存じでしょう?」

「あのザビーとかいう?」

「はい、信長さまは、それでもわたくしのチカラを必要としてくださって‥」

祈るように手を胸で組む。祈りだというソレは戦いに赴く前にも確か行っていた。蘭丸には理解できなかったが、この行為をするとき、ユエは胸を痛めていると濃姫が言っていたのを思い出す。

「ユエさまの敵は蘭丸が討ちます!」

「しかし蘭丸殿、敵を、敵をと討ち取るばかりでは孤立してしまいます。それは嘆かわしいことなのです」

「敵は友になり得る、‥でしたっけ?」

「はい。窮地に立たされたときこそ、ヒトは強さを発揮するのです」

「それでも!ユエさまには蘭丸がいます!例え誰が敵であろうとも、蘭丸はユエさまの味方です!」

そんな蘭丸の無邪気な言葉にユエは黒い靄が胸に吹かされるのを感じた。こうなっては、どうにもならないのだ、愛を友をと言う教えにも探せば穴があってソレに気付いてしまい脱け出したのだから。

「蘭丸殿、ありがとうございます」

彼は、まるであの場で見た天の使いのように見えてユエは頬を緩ませた。キョトンとした蘭丸の傘の中に入り「帰りましょう」と微笑む。

「‥ユエさま、蘭丸はユエさまの味方です」

「はい。その言葉だけでユエは十分にございます」

ボクらが歩む道


伝う雫のように今は交わりいつか離れる。それを知らぬ子供に汚れを知る娘はいつまでも微笑むのだ。


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