Sadistic Honey 05 「ねぇちゃん」「なぁに?」 慶次が複雑そうな表情をして部屋を覗いた。パソコンに向かっていた目線を向けると手招きをして、慶次は部屋に入ってくる。 「どうしたの?」 「今度‥文化祭、あんだけど」 「あ、もうそんな時期なんだ!」 盛大なる文化祭は人気が高くて、毎年ごった返すのだ。卒業してからは仕事が重なってなかなか行けなかった。 「今年は来いよ」「え?」 「休んでさ、折角だし」 「珍しいね、慶次がそんなこと言うなんて」 「‥‥別に」 いつもなら来るなとか言うくせにこう言うときは姉ちゃんっ子なんだから!と笑ってワシャワシャと頭を撫でる。 「いやさ、俺じゃなくて」 「ん?」 「チカにぃとナリさんに会いたいってクラスの女子がさ」 「チィとナリくんに?」 「たまたま、掃除してたら姉ちゃんの代の写真がたくさん出てきてさ、ほら、今の担任がちょうど姉ちゃんの担任だった奴で」 「‥ああ、武田先生か」 「そうそう、だからその、姉ちゃんの写真を人質に取られて断れなくて」 「人質?」「‥‥うん」 「なんだそりゃ、写真なんて渡しちゃえば良かったじゃん?」 「‥いや、まあ‥ほら!大好きな姉ちゃんをあいつらに渡したくなかったんだよ!(ナニに使われるか分かってて言ってんのかなこの人は)」 「んまあ!慶次ってば可愛いこと言ってくれちゃって!」 「ねーぢゃ‥ぐる゛じっ‥」 ぎゅうぎゅう抱き締めると鈍い慶次は呻きを上げた。そんなところも可愛らしいなと思いながら二人は承諾してくれるかなと明後日の方向を向く。 「んーまあいいか、一応二人に聞いてみるね」 「ありがてぇ!」 ** 来ました文化祭。 結局、チィもナリくんも頼み込んだら来てくれることになって(ナリくんは車の件をチャラに)(チィちゃんは誘ったら普通に来てくれた)三人で学校に来るなんて卒業以来だった。嬉しくて制服着ようかなとか思ったけど流石に慶次に止められた。いや本気だった訳じゃないけどさ 「みてみて、この落書きまだ残ってるよ」 「この馬鹿がふざけて書いたものだろう、あれか、女子が好きそうなまじないか?」 「なんだよ、卒業の記念だろ!」 「在学中にバレなくて良かったよねぇ、きっと卒業させてもらえなかったよ」 「ひでえ‥ユエだって同罪だろ!」 「私は関係ないもーん」 「そうだぞ長曽我部、ユエが貴様など」 「そうそう、あたしら悪友!ね?」 「チッ」 チィちゃんが三人のイニシャルを壁に掘っていた。永久にという当時流行ったおまじないだ、見つかったらどうなるか分からないのに記念だからと言って‥懐かしいなと思いながら二人を見つめる。変わったようで変わってない、大好きな二人はまだまだ私を可愛がってくれる。 「あ、二人に紹介したい子がいるの」 「あん?」「誰ぞ」 「彼氏がね、いるの!この学校に」 「「!!」」 二人は似たような表情をして私を見た。吃驚したのは私も同じで‥ 「慶次の友達でね、すっごく大人っぽくて‥」 「有り得ねぇ、ユエが?」 「‥‥‥」 「失礼な!そりゃあ吃驚したけど‥ああ慶次のクラスに行こうよ!なんだっけ‥性転換喫茶だったような」 「慶次が?」「‥‥」 「うん、チケットくれたんだ!ビップ☆ご指名できます的な!」 「‥今の餓鬼は分からねぇなぁ」 「ナリくん?」「‥いや」 複雑そうな表情をしたナリくんの手を引いてチィちゃんも手を繋いでくれた。 「なぁユエ」「なぁに?」 「‥その、目線が痛いんだが」 「毛利照れてんのか?」 「うるさいぞ、いい年した大人が手を繋ぐなど」 「いいじゃん今は学生に戻ったと思ってさ!満喫しよ!」 二人は照れていて、あああの当時もこんな感じだったなと笑みが零れた。 「お帰り、お姉ちゃん!」 「‥‥え?」 女装弟男装妹カフェと書いてあって、生徒は思い思いの格好をしていた。慶次なんてミニスカニーソ‥うう、見たかったような見たくなかったような‥ 「お帰りお兄ちゃん!」 「もう帰ってきたのかよ兄貴」 二人は男装妹達に連れていかれてしまった。あれ?私ロンリーアウェイじゃね? 「はい!慶次」「ねぇちゃん!」 「アンタの女装見る日がくるとは思わなかったわ、まあ可愛いからいいけど」 「つかよく二人は来てくれたよなあ」 「アンタね私と二人の友情の深さを知りなさい‥って、みつひ‥!」 目線をさ迷わせるとチィちゃんとナリくんを睨む人物がいた。美人な人だなとか思いながら見ていると‥それは私の彼氏の光秀くんだった。あらまあ女装がよくお似合いで‥って!女装! 「お帰りなさい、お姉さま」 「‥た、だいま?」 席に通されて、光秀くんがメニューを渡してくれた。吃驚したけどなかなか可愛らしくて、ああなんとも言えないのだけれど‥なんだべなぁ 「(こんな可愛らしい妹がいたら頑張れちゃうんだろうな)(慶次も可愛らしいけど)」 何やらメニューにはツンデレとか書いてある。面白い、これは面白いと思いながら見ていると、向こうでは猿飛くんが政宗くんを弄っていた。それはもうツンデレを注文したのだろう。 「じ、やあ‥アイスコーヒーをtんでれで」 「‥ふふ、本当に構わないのですか?」 「え?」「ツンデレで」 「‥‥‥‥‥は、い」 怪しげな光秀くんがそれはもう怪しげな笑みで消えていった。怖い、怖い気がする。慶次を手招くとニヤニヤしながら近付いてきた。 「けいちゃん、みっちゃんをね、ツンデレでお願いしたんだけど」 「あいつ今までの注文デレだけだったからなぁ」 「‥なんか怖くなってきた!」 「まあまあ、あいつだって半分嫌々やってんだよ‥ねぇちゃん来るのも嫌がってたし」 「え?」 「彼女に女装なんて見られたくねぇだろ、普通」 「似合ってるけどなあ」 「‥ねぇちゃん、だんだん危ない人になってる」 「そう?まあ光秀くんのせいだけどね」 「違いねぇ!」 「どうぞ」「うわ!」「わ!」 無言で置かれたアイスコーヒーに吃驚して、顔をあげる。光秀くんは無表情で立っていて、なんか怖かった。 「早くお飲みなさい」「ふえ?」 「ほら、順番待ちがいるのですから、待たせてはいけませんよお姉さま」 「「(みっちゃんツンこえぇ)」」 向けられた冷たい目線にゾクゾクした。怖いけど、ミルクもガムシロップもくれなくて、甘くしたいなぁと思った。 「あの、ガムシロップ」 「太りますよ」 「じゃあ‥ミルク」 「面倒です、そのままお飲みなさい」 「ちょ、みっちゃん、お姉ちゃん泣いちゃいそうだよ」 「泣いてしまわれるのですか?」 「な、泣かないよ!」 慶次はため息混じりに消えた。ちょ、ツン全開の光秀くんと二人きりにしないで!やめて助けて!けいちゃん! 「‥早く」「はひっ」 じゅるじゅるとブラックを飲むと甘かった。甘かったことに吃驚して目を見開くと光秀くんは笑っていた。あれ、なんだこれはデレなのか? 「なんですか?」「いーえ」 嬉しくてニコニコしてしまう。弛んだ頬を光秀くんは摘まむ。ああ可愛いなと見ていると近付いてきて 「ミルクなら、あとで嫌と言うほど差し上げますからね」 とか耳元で囁くから盛大にむせ込んだ。ヒドい!なんなのこの嫌がらせ! 「汚い」「ゲッくっ‥ひどっ」 「飲みましたね?飲み終わりましたね?」 「‥‥はい」 二人の席を見ればいなかった。ツレなら外に居ますよと言われて私は立ち上がる。 「‥もう行かれるのですか?」 「えっ?」 「まだお姉さまとお話したかったのですが‥」 「(デレッ!?)」 「また来てくださいね、早く会えることを楽しみにお待ちしておりますから‥ね?」 「うんっ!みっちゃん!」 抱き締め‥たかったが自重した。そうかこれがツンデレの醍醐味なのかと鼻唄混じりに二人の元へと走った。 「置いてかないでよ!」 「ああ」「‥すまぬな」 二人はグッタリしていて、ああ揉まれたのねと労いたかったが私はホクホクとしていて無理だった。 「にやけておるぞ」 「彼氏が接客してくれたからね」 「あの白髪か?」 「うん!可愛かった!」 「‥ユエよう」「ん?」 「年下なんだな」「そりゃあね」 チィちゃんは何とも言えない表情をしていた。ユエが幸せなら構わねぇって言ってたけどなんだろう?どうしてチィちゃんやナリくんがそんな表情するの? 鈍感で天然さんの疑問 でも、次は!次は!と二人を連れ回して卒業生なりに文化祭を楽しむことにしたのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |