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03

「‥と、ニンゲンに迫害を受けた彼らは‥‥になり、‥」

プリントはとっくに終わっていた。回りは他の教科の宿題やらなんやらをしていて、殆んどが授業なんて聞いていない。そんな中でも佐助はユエの言葉に耳を傾けていて、メモをするようにペンを走らせる。

「(どっかで見たことある気がするんだよなぁ)」

デジャヴ、とはまた違うような感覚に頭痛すら覚えた。なんだろうなぁと気にしながらもプリントに書き足しながら90分はあっという間で、皆教室を出るときにユエにプリントを渡している。ごった返すのが苦手で、次は昼休みだしと最後の最後まで残ることにしていた。

「先生さ、どうしてそんな緩いの?」

「猿飛くん?」

「俺様、不思議で堪らないわけでさ」

驚いたのだろう、生徒とは言え初対面に声を掛けられるとは思わなかったようだ。

「あくまでも‥生徒救済の教科だから、私も堅苦しいの苦手で」

「ふぅん、でもなかなかA+はくれないんでしょ?」

「教科を写すだけのプリントにA+は‥ねぇ」

クスクスと笑うユエに佐助はグッと心臓を捕まれたような感覚を受けた。何故か、知っているような、切なさを帯びて渡すはずだったプリントをサッと手離すことが出来なかった。

「先生と、俺様‥初対面だよね?」

「こうして話すのは初めてね、学校‥学食や職員室では見かけているかもしれないけど」

「‥違うんだよなぁ」

「?」

首をかしげるユエに佐助は違うんだよなぁとまた呟いて、頬を掻いた。この女性から伝わる柔らかな緊張が佐助の違和感を確実なものにしていて、ふと彼女の左手首に目がいく。

「先生、古い時計してるね」

「え?あ、そうね、もうどこにも売ってないよ」

「俺様の従兄弟の実家、すっごく昔から時計屋してるけどそんなの見たこと無いよ」

「そ‥うなの?ふふ、もう何度も鎖が壊れかけては独学で直しながら使っているから」

シャランと細い鎖が鳴る。まるで懐中時計のような鎖は二重に巻いていて、それでも余る鎖は垂らしている。白く細い手首に合わないのだろう、佐助はソレを見てまた頭痛を覚えた。

「‥先生さ、その時計とっくに止まってるでしょ?」

「ええ、」

「なのにどうして付けてるの?」

「‥直してくれる人を待っているの、どの時計屋にもっていっても誰にも直せないから」

「え?」

「なんでもないわ、ほら、昼休みが終わっちゃうよ」

猿飛くん、と呼ばれてプリントを持つ手を離せばユエはプリントをまとめてファイルに挟む。何故か佐助はもっとお近づきになりたい気分になり「またお話ししよう、先生」と部屋を出る間際に声をかけた。

私でよければ、と震えた声


(‥似てるの、すべてが‥あのヒトそのもの)(深入りするのが怖い、でも‥彼は、彼はきっと)


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