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09(石田)
今日は大谷さんが不在だった。連絡はなかったからすぐに帰ってくるだろうと思い、いつものように仕事をしていれば携帯が震える。見れば家主からで今日は付き合いがあり帰宅が遅くなるから早めに帰宅せよとのこと。夕飯はいらないと書いてあって、買ってきた材料を冷蔵庫にしまい、せっせと仕事をして帰宅することにした。また明日、作ればいいかと少しだけ寂しさを覚えながら主のいない家にいても仕方がないと思ったのだ。

メールにお茶菓子を食べてほしいと書いて返信する。施錠をして帰宅しようと思えば石田くんが玄関先にいて吃驚した。

「大谷さんなら不在ですよ」
「そうか、確か今日は締め切りだったな」
「もっと早く知ってれば良かったんだけどね」
「ユエには連絡があったのだろう、私にはなかったからな」

ふたりで何やらしょんぼりしてしまい、良かったらお茶をしないかと石田くんは言った。私は断る理由もなくて了承し、駅の近くのカフェに入ることにした。しかし、よく考えたらデートみたいではないかと思い石田くんに勘違いされちゃうねと笑う。

「友達だろう、お茶をして何が悪い」
「それはそうなんだけど、女子って噂が大好きなんだよ」
「噂など気にすることはない」

石田くんは強いなと思った。私なら否定はするがなんとなく気になってしまうのに。ふたりの話は自然と大谷さんのことになり私の知らない大谷さんの話は大変興味深かった。

「また3人でお茶をしようね、でも来るときはお茶菓子を指定してね」
「茶菓子なら何でも構わないだろう、ユエは考えすぎだ」
「そうなのかな」
「そういえば、仕事はどうだ?」

大谷さんは無理難題を言わないから良くしてくれているよと返事をする。無理はするなと言われ、真田に渡す菓子を私にも寄越せと言われてしまった。なぜユキくんにお菓子をあげていることを知っているのか不思議だったが、大谷さんちで作るから学校ではあげないよと意地悪めいたことを言ってみせた。なぜだか、しょんぼりしてしまった石田くんを可愛いなと思った。

「石田くんは」
「ん?」
「思っていたよりお喋りするんだね」
「普通だと思うが」
「そうかな?なんか学校で知ってる石田くんとは少し違う感じ」
「話す理由もないだろう」
「そうだね、図書室で話すぐらいだったもんね」

それもつい最近のことで今までクラスメートだったのにまともに会話もなかっとんだねと染々してしまった。今日はもう少し話がしたいなと和食の本を買ったことや昔の友達とまた話せるようになったことを話した。大谷さんと同じで然程興味のない話でも石田くんは聞いて相槌を打ってくれる。大谷さんに会えない寂しさが--何故、寂しさを感じなくてはならないのか分からないが--和らいだ気がした。

「ユエは」
「はい」
「私のことが怖くないのか」
「石田くんって怖いの?クラスの石田くんしか知らないから何とも言えないけど、大谷さんの友達でしょ?」
「ああ」
「私にはそれだけで充分だよ、こうしてお茶飲み友達になれたんだし」

そうか、と言って石田くんは笑った。そう言えばクラスの石田くんっていつも眉間に皺を寄せていて笑った顔を見たことがなかった気がする。よく違うクラスの人が会いに来るのを見るがそれでも笑ったのは見たことがないなぁ貴重な経験なのかもしれないと思った。

「ユエを」
「うん」
「刑部に推薦したのは間違いではなかった」
「職を失わないで済んだよ、ありがとう」
「刑部が困っていたからな」
「私も困っていたよ」

あのカフェで会ったとき何故私だと分かったのか訊ねてみたら、普通分かるだろうと言われた。化粧をしてコンタクトをしていたのに何故私だと分かったのか不思議だったが、それを言ったら石田くんの頬がなんとなく赤くなった気がした。

「あの頃はクラスでも話さなかったのに、不思議でさ」
「それでもユエだと分かったのだ」
「学校で話しかけられて吃驚したんだからね」
「そうか」

密会染みたお茶会


翌日、石田くんと付き合っているのかとクラスの子に訊ねられて驚いたが、年上がタイプだからねと笑って見せた。やはり女子って噂が大好きなんだよね。


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