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02
朱色の筆先の落ちる長方形の半紙、朱が染み込んで不思議と広がり形を象る。全てに同じ柄が広がれば束にしてナイフの付いた機械に流し込む。すると、小さな長方形に半紙は切られ、よく見る札の形になっていた。少女は真剣な表情で筆を動かし何枚もの半紙を作っている。畳の上に広がる紙に少女は満足いったのか、ふと溜め息をついた。カタリと外で物音が聞こえ少女はそちらに顔を向け、立ち上がり、パタパタとその部屋を抜けると薬草の匂いが立ち込める部屋には一人の男が立っていた。少女は嬉しそうに会釈をして男を迎えた。

「いらっしゃいまし」
「札を頼みたい」
「はい」

少女は木箱を開けて男に差し出す。夏だというのに長袖のシャツを着て肌を見せない男の名を少女は呼んで「よぅございますか?」と訊ねた。男は満足そうに頷いて紙幣を差し出す、少女は深々とお辞儀をして、また宜しくお願いしますと笑った。

「して、大谷殿、そちらの殿方は?」
「前に話をしたであろ」
「ああ、石田殿ですね」

店の入り口付近に佇む銀糸を纏う痩せた青年に少女は会釈をして、札はいかがですかと笑んだ。

「刑部が気に入っていると聞いている」
「左様ですか、私はユエと申します。どうぞ店内を見て下さいませ。気に入りがございましたらどうぞお手にお取りくださいませ。なんなりと申し付けてください」
「刑部、少しいいか」
「構わぬ」

あれやこれやと手に取りながら三成と呼ばれた青年はユエに声を掛け、あれやこれやと質問をしていれば、幾つか気に入ったのか風呂敷に包んで貰っていた。大谷は気に入ったかと三成に尋ね、三成が肯定の返事をしていたのを聞きユエは嬉しそうに恥ずかしそうにはにかんでいた。

「どうぞ、今後もご贔屓に」
「刑部の気に入りなのも合点がいった、また来る」
「有り難き幸せ」

戸を開ければ晩夏の風が髪を揺らす、三成はユエについては何も聞かなかった。大谷は内心、安堵してユエにまた来ると言い帰って行った。

「(うぅ、狐臭い)」
「失礼なことを言わないで。大切なお客様なのですよ」

部屋の奥から現れた使い魔にユエは溜め息をつき、鍋底を見つめて籠を背負う。使い魔はまた森かと欠伸を噛み締めた。

「行ってきます、番を頼みますね」
「(俺は寝てるからな)」
「はいはい、今日はもう来客はないと思うけれど、何かあったら呼んで」

日常茶飯事

使い魔に番を頼むなんてと、また欠伸をした。


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