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花壇の君(徳川)
大輪が陽に向かい誇らしげに羽ばたいている。そのさまはまるで隣のクラスの彼のようだと思った。もう百合の花も満開だ、それもよく似合う同じクラスの彼を私は知っていた。

「水やりか、暑いのに大変だな」
「仕事、ですから」

彼はよく声を掛けてくれる。大きな麦わら帽子を被った私は初めは誰が声をかけてきたのか分からなくて、警戒したものだ。隣のクラスの徳川くんだと理解してそれからは時折雑談を交えるようになったのだ。放課後の花壇での対話を羨ましいと言う子もいた。だったら水やりをすればいいと言ったのだがそれは断られてしまった。花壇を管轄としている黒田さんの噂を信じているのだろう。私はちっとも不運ではないのに。

「ああ、そうだ」
「なにかあったか?」
「少し待っていて」

ホースを片付けながら私は水の入ったペットボトルを取り出して腰に引っ掻けた園芸七つ道具(七つあるかは知らないがこう呼んでいる)から園芸用の鋏で向日葵を一輪切り落とす。ペットボトルに挿してそれをそのまま彼に手渡す。酷く驚いた表情をした彼は恐る恐る受け取ってくれた。

「なぜ、ワシに?」
「向日葵みたいに笑うから」
「しかし、男子に花を渡すとはなぁ」
「なぜ?石田くんは喜んでくれたわ」
「三成にも渡したのか?」
「あっちの花を。とても似合っていたわ」

百合の花を指差せば、ああ、と徳川くんは納得したかのように頷いていた。

「妬けるな」
「?」
「ユエはそうやって花をプレゼントするのが趣味だろう?」
「趣味じゃないよ、向日葵は徳川くんで百合の花は石田くん。あとは季節の花を玄関前に飾るぐらい」
「そうなのか?」
「そうだよ、そんな誰かにあげるなんて勿体無いことしない」
「ワシらは特別か?」
「特別というわけでもないけど、友達に言ったらイメージぴったりだねって言うから渡してみようかなって」

嬉しそうにはにかんだ徳川くんはキラキラしていて眩しかった、ああ向日葵がよく似合うなと帽子を深く被って恥ずかしさを隠した。ありがとうとまた言うから私は鋏をしまい、背を向けた。

「大切にするよ」
「すぐに枯れてしまうよ」
「それでも、ユエから貰った大切な一輪だからな」

誇らしげに

帽子を深く被り背を向けていたから、徳川くんの顔が赤いのに気付かなかった。


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