(慶次) 誰にでも大丈夫だと私は言う。 美術室に籠りっきりな私を心配して来てくれる友人は数多く居れど、居残るのは慶次ぐらいだった。気が散るし何より製作途中を見られるのが耐えきれなかった。私はつい感情的になって慶次を追い返していたのに、今日は引かない。何かあったのだろうか、私の口からは帰れば?しか出てこなかった。 「もう三日も籠ってるんだよ、帰ろうよ」 「帰ればいいじゃない、私は忙しいのよ」 「ご飯だって満足に食べてないだろ、飯にしようぜ」 「余計なお世話よ、慶次」 本当に余計なお世話だった。慶次が来る少し前に休憩にしようと思っていたのに慶次が来たら休憩したくなくなってしまったのだ。本当に天の邪鬼だなと私は内心で笑って筆を置いた。 「慶次、お昼にしましょう」 「うん」 「えっ、泣いているの?どうして?」 「だって、ユエちゃんが」 「私が?」 「美術始めたら、こんなに脆くなるなんて思いもしなかった」 「慶次?私は脆くなんかないよ、変わらないよ」 「こ、こんなに、窶れちゃって」 窶れてなんかないよと私は抱き付いてくる慶次の背中に腕を回す。アトリエでこんなことをしていたら教授に叱られてしまうよと言うと慶次は鼻を啜って私を解放した。天の邪鬼の私も彼氏の涙には弱いようで出されたまつ姉さんのお弁当を食べながら慶次にお茶を渡す。姉さんはきちんと私の量を知っているから慶次に余計な心配を掛けず済んだ。有り難いことだった。また何かしたら慶次は泣いてしまいそうになるのだもの。 「ユエちゃんがいないあの家は寂しくて」 「うん」 「まつ姉ちゃんも利もなんとなく寂しそうで」 「うん」 「毎日通うのは出来ないけど、忙しくても会ってくれるかい?」 「当たり前でしょう」 頬にキスしてやった 「じゃあ、もう泣かない」 「そうして頂戴、おっきな子供みたいで見苦しいわ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |