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鬼の旦那は後ろから聞こえる会話をどんな気持ちで聞いているのだろう。

「‥だってよ?」

「‥‥るせぇ」

本当は三人でも良かったのだ。いつもの買い物だし、ゲーセンだって行くつもりはなかった。(あそこは旦那が騒ぐから)でも携帯を持つ手は無意識に鬼の旦那の番号に発信していて‥誘ったのは、ほんの気紛れ

「(俺様ってば、敵に塩を送ってる)」

これが本音だった。ただでさえ、天然のユエは人見知りをして口下手で危なっかしいのに、これ以上面倒事を増やしてどうするのだろうと思いながら鬼の旦那の顔色をうかがう。

「(満更でも、ない‥ってとこ?)」

「猿飛、お前一度殴られとけ」

「ちょ、なにそれ」

「無意識か?にやついてんだよ」

グリグリと肩に拳を押し付ける。旦那がまさかユエちゃんにそんなことを聞くなんて思ってもみなくて驚いてるんだけど(甘味の話ぐらいしかしないだろうと思っていたからね、マジ)

「‥よかったね」

「‥‥」

まぁなと呟く鬼の旦那は本当に嬉しそうだった。


「げーせんでござるぅぅぁ」

「ちょ、旦那!」

「いくぞ佐助!」

みぃなぁぎぃるぅぁぁ‥と言いながら真田は消えた。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥」

「‥猿飛が、三人なら絶対来ねぇつってた意味がよくわかった」

「‥うん」

仕方ないなとユエは苦笑して俺の袖を掴むと「いこう」と促す。

「チカちゃんは何するの?」

「あー俺はいつでもこれっからな、ユエに付き合うぜ」

「クレーン見る!」

嬉々としたユエは、のしのしと縫いぐるみのケースを見て回る、途中で猿飛の姿を見た気がするが、今だけは二人きりな気分に浸りたかった。

「(西の鬼ともあろうものが)」

伊達の姉に腕を引かれてあるいているなんて知られたら野郎共が泣くなと思いながら、キョロキョロとまるで本当に子供のように縫いぐるみに目移りをしているユエを見つめていた。

「‥チカちゃん?」

「あ、あ?」

「ごめんね、楽しくない?」

「んなことねぇよ、ゲーセンっつったら格ゲーぐらいだかんな‥縫いぐるみなんて見ねぇし(ガキの頃は沢山持ってたけどよ)」

「そうなの?私ね、このシフォンちゃんが好きなの」

色とりどり、ふあふあの縫いぐるみを指差して恥ずかしそうに頬を緩めるユエが本当に女の子って感じだった。

「ああ、(懐かしいなぁ)」

「知ってるの?」

「(昔、家に何匹かいたからな)‥あ、ああ、人気だろ?」

「うん、私の部屋にはね、蒼い服を着て眼帯したシフォンちゃんがいてね、」

「‥伊達、か?」

「ふふ、昔に小十郎さんがカスタムしてくれたの‥ひとりでも寂しくないようにって」

懐かしそうに見つめるユエはどことなく寂しげで、抱き締めたい衝動に駆られた。

小さくて華奢な肩に細い腕、電車で初めて会ったとき、今にも泣いてしまいそうな表情にギョッとしたのを今でも思い出す。どうしてこんなに人の多い車両に一人でいるのかと東の竜に対する怒りが込み上げてきた(当初、アイツのオンナだと思っていたからな)のだが、猿飛から情報を貰って読み上げてからは‥

「‥真田くん、落ち着いたかな?」

「そういやぁ‥静かだな」


クレーンから離れて猿飛と真田を探せば、ベンチに座ってジュースを飲んでいた。

「何してるの?」

「あー、休憩中」

「‥何をどうしたら此処まで疲れるんだよ、真田は」

「某、まだまだ修行が足りないでござる」

何があったんだ?と首をかしげる俺とユエに猿飛は苦笑していた。

「‥さて、チカちゃんには旦那を任せて俺様達は買い物にいきますか」

「任せて?」

「ほら、デパート近くのホテルには90分バイキングがあるでしょ?」

「‥あ、あぁ」

若干、ユエの表情が歪む。何かトラウマがあるかのようなソレに俺は首をかしげた。

「なにっ!『ばいきんぐ』でござるか!」

「今日は鬼の旦那と行っといで」

「おい、俺は甘味で元なんてとれねぇぞ」

「あー、大丈夫だよチカちゃん‥相手は真田くんだから」


遠い目をして言うユエは「御愁傷様」と言わんばかりに手を合わせていた。

「旦那、食べ過ぎちゃ駄目だからね」

「わかっておる!」

「はい、鬼の旦那、お会計宜しく」

猿飛はさっさと金を渡して、ユエと買い物リストを広げていた。

「‥チカちゃん、頑張ってね」

応援された。なんだってんだ?

その意味を知るまで、あと30分も掛からないのだ



(もう二度と真田とは此処に来れない)(つか、こいつの体内は甘味で出来てるんだ)

(‥チカちゃんお疲れ)(私も大変だったんだよ)

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