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(慶次)
「ユエちゃん、おはよ」
「おはよう、今日も早いのね」

私の朝は早い。
これは、慶次が私の時間に遅れないように早起きをして一緒に登校を始めて二週間が経ち、風来坊と呼ばれた慶次が出席をする教科が増え教師を驚かせ、私の株が上がったのを二人がまだ知らなかった頃の話である。

「朝はさ、彼女と一緒に登校したいじゃん」
「私は別に、彼女になったからって一緒に登校してるつもりはないのだけれど」
「いいじゃん、お堅いこと言いっこなし!」
「お堅いことを言わせているのは慶次だわ、私はいつもの時間。慶次が合わせてるだけでしょう?」

二人は二週間、こうして毎日会話をしながら登校している。仲が良いのは物心ついた頃から一緒におり、つい最近付き合い始めからで--慶次から告白したのをOKしたのは紛れもなく可愛らしくないことを言い放つ私なのだが--私自身も慶次に優しくできないことを何度も後悔しており彼もそんな私の性格を理解していての行動、言葉であった。二人は凸凹なりに合っているのだと私達を知る周りは口を揃えて言う、それを腐れ縁だからと私は言うのだが。

「今日は放課後、美術室?」
「来なくて良いよ、きっと遅くなるし」
「一緒に帰ろうぜ。今日はまつ姉ちゃんが夕飯食べてけってさ」
「毎日のようにまつ姉さんにお世話になりっぱなしで悪いよ、今日は用意してくれてると思うし」
「大丈夫、いつものようにオバサンにはまつ姉ちゃんが話つけてくれてるから」
「…じゃあ、お言葉に甘えようかしら」

出張と夜勤の多い両親に代わってよく夕飯を作ってくれるまつ姉さんに私は大層弱かった。慶次にとっては腐れ縁から彼女になった私との時間を大切にしていて、まつ姉さんもその夫である利家さんもそれに協力的なご様子。ご飯を食べて一緒に勉強をして私達はお隣さんなのでギリギリまで一緒にいることができるのだ。慶次としては嬉しいことであるようでいつも上機嫌であった。

「今日はホッケにするって言ってたよ」
「そう」
「ユエちゃん今度専用の茶碗買いに行かねぇ?」
「別に私が持参すれば良いことでしょう?」
「まあ、うん」

一瞥されても笑って許す寛大な慶次に私はすっかり甘えてしまっていた。おおらかと言うかバカ正直というか、そんな慶次だからこそ私と--それこそ十七年も付き合いがあり、あまつさえ好意を持ちカレカノになどなったのであろう。最初に浮気してもいいからねと言ったときにだけ彼は怒りを見せたのだ、忘れもしない。あんなに怒った慶次を見たのは幼少期にケンカした時ぐらいだったのである。

「もう少し離れてよ、近い」
「そうケチケチするなって!」
「付き合ってはいるけど、バカップルになるつもりはないわ。もう少し離れて」

肩を並べて歩く、二人の距離は手を繋いでいなくともかなり近かった。私の嫌がることは基本的にしてこないがこれではまるでバカップルではないか。長身の慶次に一五〇aの私は本当に凸凹コンビだから余計に目立つ、目立つことは好きではない為学校に行けば慶次と話すことも少なかった。可愛くない私を好いた慶次の気が知れない。

「ちなみに今日の昼はどうする?」
「静かな場所がいい」
「じゃあ裏庭だな、友達呼んでもいいだろ?」
「真田くんと猿飛くん?」
「そ、あと元親とか。いつもの奴ら」
「構わないわ」

毎日のように繰り返される会話に慶次は飽きないのだろうか、正門を潜る前に必ず犬宜しくお伺いを立ててくるのだ。いつもは美術部で食べているため断るけれど今日ぐらいはいいだろうとOKの返事をする。慶次は嬉しそうに笑って私の髪に触れた、うっとおしく一瞥して正門を潜れば友達のかすがが見えた為駆け出す。慶次はまたなと後ろで声を掛けてきた。

「おはよう、かすが」
「おはよう、ユエ。なんだ前田はいいのか?」
「家から此処まで一緒だったし、帰りも一緒みたいだから、別に。私だって好きにしたいもの」
「腐れ縁が付き合うと大変だな」
「そうね、出来れば他に彼女を作って頂いて私達は腐れ縁に戻れたらいっそ楽かも」
「前田の前では言わない方がいいぞ」
「そう?」

彼の愛に彼女は気付かず

「ユエ!迎えに来た!」
「なんだ、昼まで一緒とは珍しいな」
「たまにはね。真田くんとか猿飛くんとかも一緒だよ」
「(奴らも一緒でないとユエはOK しないからか、哀れだな)」


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