X'mas(オラトリオ) 初めてオラトリオと日本で冬を迎えた。 「くし、」 「ほら‥風邪をひくだろ」 「ん、んん」 日本の冬がこれ程までに寒いものだとは知らなかった。外に出て雪を眺めていたところに不意にあたたかなマフラーを首に巻かれて、ひどく驚いたのだ。 「‥ん、ありがとう」 ふわふわの毛糸からは真新しい香りがした。色も綺麗すぎるし、何よりオラトリオがいまさっき紙袋から出したものなのだ。 「‥‥?」 「メリークリスマス、」 「くりすます?」 「は?忘れてたのか?」 クリスマスだと言われても、研究室に引きこもりっぱなしの少女には興味のないことだった。 「ありがとう、ちょっと、びっくりした」 「喜んでいただけて光栄ですよ、お嬢様」 「あ、でも」 「‥次のメンテナンス担当してくれりゃあ、それでおあいこだ」 「‥そんなんでいいの?」 「ユエにメンテナンスされるのは不安だがな」 ひどい!と頬を膨らますユエは怒っている様子もなく拗ねたようにマフラーに顔を埋めていた。 「(なにもしてあげられないけど)」 今日ばかりはオラトリオの傍にいたいと、ユエは携帯電話をこっそりとサイレントモードにすると背中から思い切り抱き着いた。 クリスマスなんて忘れてたよ! 賑やかなパーティより二人だけの静かな一時が幸せだった。 [*前へ][次へ#] |