02
淡色の髪を掻き上げて長身の男はパソコンの画面に張り付いていた。傍にはよく似た男が呆れ顔で本棚の整理をしている。
「ユエ嬢からメールがこない‥」
「ユエは忙しいんじゃないのか?」
「午後から意見交換というなのデートなのに、カルマの野郎独り占めしてやがるな」
「‥はいはい」
空返事でまた1つ本を棚に戻す男--オラクルは相棒から視線を外して仕事に集中した。相棒にもそれなりに仕事があるはずなのにサボるなんていいご身分だとオラクルは肩を落とす。
--オラトリオ、遅れてごめんなさい。
「お!噂をすれば」「ユエ?」
--まさかオラクルのところとは思わなくて、久々に本部に電話しちゃったわ
「待ってろ、今、有線繋ぐから」
小さな画面が現れて、ユエの顔が写し出される。彼女の方からすればディスプレイに映る2人の顔に目を丸くした。
「あら、オラトリオ久し振り」
「よぉ、待ちくたびれましたぜお嬢さん」
「やだな、もうお嬢さんって年でもないのに」
「変わりやしませんぜ、ユエは」
「ありがとう。オラクル久し振りね、オラトリオはきちんと仕事してるかしら?」
「‥久し振り、って言うのかな?ユエも元気そうでよかったよ」
ニコニコと微笑むオラクルにつられてユエも笑顔になる。濡れた髪に気付いたオラトリオは「また海ですかい?」と尋ねた。
「ええ、海は好きよ。リュケイオンに来てから仕事の合間に‥毎日のように泳いでるわ」
「なんでしたっけ?人魚姫?」
「ふふ‥でも私は泡になれそうにないから」
「王子役、いつでも承りますぜ?」
「残念ね、私はきっと王子様を刺すわよ?」
それはご勘弁、とオラトリオは笑う。ユエはメールを送って「リュケイオンの資料なんだけどね」と声のトーンを落とした。見たところ深刻な問題は無く、全てが順調だった。
「さすがユエ嬢、これならいつでも大丈夫そうっすね」
「明日には、本部を想定して全ての設備をフルに使ってみるつもり。個々別なら問題はないけど‥まあ、大丈夫だと思うんだけどね」
「慎重だね」
「そりゃあね、このプロジェクトはカルマにとって大切なモノだから」
「そう言えば、カルマは?」
「メインルームに居るけど‥話す?」
「いえいえ、野郎と話をするよりユエ嬢と話をしたほうが俺は幸せです」
調子がいいこと、とユエは呆れた様子で笑う。「何か変わったことは?」と彼女が尋ねればオラクルが「あ」と声を上げた。
「登録にね<A-S>が加わったよ」
「あら、制作者は?」
「音井教授、音井ブランズだね」
「オラトリオの新しい‥弟だね」
「俺は妹がいいんすけど」
「あらあら、きっと弟になると思うけどなぁ」
もし万が一女性型だったならユエはオラトリオから身を守るための護身術を教えなくちゃと肩を震わせて笑った。
「ユエ、無理はしてない?」
「ん?大丈夫だよオラクル」
「誰か助手連れていけば良かったのに‥ひとりは寂しいだろう?」
「寂しくないわ、だって兄さんがいるもの」
むしろ人間が一緒の方が面倒だとユエはウィンクして見せた。同じレベルの研究員とでないと足を引っ張られてしまうだろうし自分以上のレベルを持つ人間と組んでもストレスになるから独りの方がいい、--リュケイオンに配属となった当初と意見は変わらないようでオラトリオは苦笑して見せた。
「ブラコンは困るぜ」
「あら、今頃気付いたの?私は完璧にブラコンよ」
兄も弟も大好きなのだ
“弟”が姉離れしてしまってからは“兄”にベッタリなのだ。
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