01
「ユエさん?」
救助用に精密に造られたロボット以外は立ち入り禁止とされる人工的砂浜に彼女はいた。カルマはティータイム後に姿を消したユエを探してようやく居場所をつきとめたのだ。
「カルマ、こっちには来ちゃ駄目だよ」
「一言、言ってください。突然いなくなるなんて」
「カルマの“瞳”ならすぐに見つかるでしょうに」
死角に入ったのは誰ですかとカルマは小言を言う、ユエは空返事をしてまた砂浜から波打ち際まで歩き、ゆっくりと海水に身体を沈める。泳ぐのは彼女の趣味で、仕事終わりに必ずこうして月や星を見上げて気の済むまで海と会話しているのだった。
「母なる海は私たちの故郷だから」
「‥冷えますよ」
「それにね、こうやって見てるとまるで‥小さい頃にカルマがよく聴かせてくれた人魚姫みたいでしょう?」
ベリーショートのプラチナブロンドがキラキラと陽の光に照らされユエはパチャンと海に潜った。カルマは彼女が上がるまで待つことにして椅子に腰掛けてガラス越しに見つめていた。
「ユエさん、タオルを」
「ありがとう、このままシャワーに行くわ‥もしかしたらカシオペア博士から連絡がくるかもしれないの」
「はい、こちらからかけ直すと伝えます」
「ありがとう、宜しくね」
お気に入りのタオルを肩に掛けてユエは軽い足取りでシャワールームに向かう。まるで2本の足を得た人魚のようだとカルマは背中を見送り彼女の部屋に向かう。
「‥誰か連れて来れば良かったのに」
ポツリ呟いてガランとした室内を見回す、必要最低限しかない彼女の部屋はとても寂しそうに映った。時折、同期の研究員や正信と話をしているのを見たがあまり楽しそうではなく、カルマやオラクル、エモーション等のロボットたちとの会話の方が生き生きとしていた。
「それではいけないと、わかってはいるんですけどね」
「独り言?」
ふわりと香るシャンプーにカルマはハッと顔を上げた。寝間着に半乾きの髪にタオルを乗せた姿に「きちんと乾かしてください」とカルマは肩を落とす。
「あら、オラトリオは暇人なのね」
「えっ?」「メールが来てるわ」
カチカチとマウスをクリックしてメールフォームを開けば宛先はオラトリオ、近々単身でリュケイオンに行くかもしれないという内容にカルマは眉を潜めた。ユエは暇人と言うが表情は柔らかく、嬉しそうだった。
「カルマ?」「えっ?」
「どうしたの?どこかおかしい?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「明日は全室の管理をしてみましょうか、外の境目もメインルームから“視て”みなくちゃ」
「はい」
いつか本部化する海上都市を夢見ているのは長年付き合ってきたユエも同じのようで「明日は忙しくなるわ」とニッコリ微笑む。カルマはペットボトルのお茶を差し出して「頑張ります」と金糸を揺らした。
きっと、彼女が補佐をしてくれるから頑張れるのだ‥と
ロボットが馴れ合うなんておかしいのかもしれないが、カルマにとってユエは特別な--“妹”という存在なのだ。
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