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カーディガン 中二 冬
仁王が何かが入った紙袋を押し付けるように渡してきた。すっかり冬めいた昼休み、クラスの友達である柳くんは物静かで本の話も出来てなかなか居心地が良かった。なのに注目の的な仁王が--なんて、思うわけないんだけどさ。

「ナニコレ」

「仁王なりの感謝の証ではないのか」

「私、あいつになんかしたかしら?」

「先日のテストのヤマが当たったそうだ」

「柳くんなんでそんなに知ってるの?」

「‥‥データがあるからな」

「へぇ、じゃあ私の好きな動物とか知ってる?」

「爬虫類と蜘蛛」

「うわほんものだこわいー」

紙袋の中身を当てて頂きたいと言えば柳くんは無言で人差し指を唇に当てた。知っているが此処では言えないなと笑う彼は本当に何でも知っていそうで、でも此処では言えないモノというのが気になった。

委員会の当番は初めの30分だけ柳くんと一緒だ、だからその時になら参謀と呼ばれる彼の意見を聞けると思った。

「‥指定のカーディガン?」

「ほう」

「よくわからないけどアイツ身長伸びたからっていう当て付け?」

図書室は静かでカシャカシャという紙袋が擦れる音が響く、隣の柳くんはまた興味深そうな表情をして広げたカーディガンを見ていた。

「なんか‥オークションでも開いたら高値で売れそう」

「仁王が泣くぞ」

「そうかな、でも‥当てつけに対する私の怒りはどこに向かえばいいのかな」

「当てつけでないという可能性を見出せばいいだろう」

「毛玉付きのお古だよ?どんな可能性?」

「簡単に言うならマーキング、だな」

「だから私に彼氏が出来ないんだね」

「彼氏を作る気があったのか」

「いちおう、じょしですし」

「そんな関係に固執するような性格ではないだろうに」

「柳くんはどうしてそう見透かしてるかな」

柳くんが「お前のことなら分かるよ、第三者としてだがな」と言うならそうなのだろう、それよりも問題は仁王だ。仕方がないから部屋着にでもしようかなと呟けば、手にしたカーディガンから仁王の香水の香りがした。本当にマーキングなのかもしれない、彼氏を作らせないつもりなのだろうか。

「ま、ファンクラブからの嫌がらせの代償と思えばいいか」

「‥‥止んだのではなかったのか?」

「あ、しまった」

「全く、赤也を悲しませるつもりか」

「だ、大丈夫だから、もう無いから!」

本当か?と言いたげに見つめる柳くんに全力で頷いた。赤也くんに見つかってからはファンクラブは私を見て見ぬ振りをしている、そう柳くんに言ってこの話は終わりにすることにした。

「コレは部屋着にしましょう」

「‥その判断はオススメしない」

「分かってますよ、本気にしないで」

「しかし‥仁王は何を考えているのか‥」

ぶつぶつと呟く柳くんはバッグを背負い「すまないが、あとは頼む」と律儀に断りを入れて部活に向かった。私は返却された本の整頓をしようと立ち上がり、呼び出しようのベルをカウンターに置いて立ち上がる。


「よう参謀、ユエちゃんの反応はどうじゃった?」

「驚きと戸惑いが殆どだったぞ。少し気が早すぎたのではないか?」

「丁度、買い替えようと思ってたんじゃ」

「ああ、成長した当て付けというのが一番に残っているようだったな」

「あ、当て付け?」

「当たり前だろう、せめて綺麗に整えてから渡すべきだった」

「匂いが消えるのが惜しくてのう」

「‥マーキングか」「おん」

素直に答える仁王に柳は驚きを隠せなかった。どういうつもりなのかと柳が問う、仁王はただ苦笑して「ユエちゃん、可愛いからな」と言った。

「参謀はユエちゃんのなんじゃ?」

「なに、とは愚問だな。クラスメートで同じ委員会、彼女の一言で俺の委員会参加は三十分になった。感謝をしている」

「ふぅん、お気に入りなんじゃな」

「気に入り、と言うのか?‥だがクラスメートの女子の中では話しやすいな」

「そうなんか、参謀に気に入られとるとはの‥ま、ファンクラブの女子とは違うから気に入られて当たり前じゃな」

「そういうお前はどうなんだ?」

「‥そ、それを俺に聞くんか」

「簡単な答えだ。親友、なのだろう?」

「そーじゃよ、親友、じゃ」

「しかし、仁王といる時の紺野は他の誰といるよりも楽しそうだ。良かったな、彼女に一歩踏み込んでいるようだぞ」

「弱みに付け込んだだけぜよ、‥やめじゃ、この話はやめじゃ」

「カーディガンも、嬉しそうだった」

「ほ、ほんま?」「ああ」

彼女の話を持ち込むと仁王は詐欺師ではなくなる、これが柳の新しいデータに加わった。

参謀だって詐欺師だって思春期

「(ほんと、これ着なきゃ駄目なのかな)」

「(ほんと、ユエちゃん着てくれるんじゃろうか)」


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