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それはいつもの金曜日
「指?」

「そうじゃ、左手の指を貸してくれんかの」

「切り落とさないでね」

「そんなことはせん、ちぃーとばっかし咬ませてくれればええ」

だからコイツは彼女と長続きしないんだと思った。仁王は中学に入ってすぐに出来た友達で、ファンクラブが出来てからも仲良くやっていたし性別なんて関係なく、私達は悪友だった。大学を卒業して就職してから(私はそのまま立海の中学の教師をしている、仁王はよく分からないが多分ホストみたいな夜の仕事をしているんだと思う)は何故か「追い出された」と言っては私の所に転がり込んでくる。

「はい、どうぞ」

「石鹸の匂いがするのぅ」

「洗い物してたからね、‥って、アンタ床でいいの?」

「構わん、ユエはテレビ見るんじゃろ」

邪魔はしないと言うが噛まれる方の身にもなってみろと口には出さないが、見たかった映画の録画を再生した。仁王は私の左手を掴んで人差し指に唇を落とした、くすぐったいが面倒なのでなるべく表情に出さないことにした。ソファに沈んでテレビを見る私、床に座って私の指を弄ぶ仁王、第三者が見たらシュール過ぎる光景だが飼い猫がじゃれて遊んでいるのだと考え直した。

「アンタ、仕事は?」

「今日は休みじゃ、だからこうやってユエんこと構っとる」

「構われているのか私は」

あにあにと唇で食まれ、次に甘噛みをされる。変な趣味だなと思いながらもテレビに集中して、お茶に口をつける。仁王は人差し指に舌を這わせてパクリと口の中に入れた。赤ん坊のようだと思いながらも私は好きにさせることにした。

「なあ、ユエ」「なに?」

「薬指に変えてもええ?」

「今更何を言うか、好きにしたらいいよ」

「おん」

薬指を同じ順序で食べられ、映画が終わる頃には満足したのか、それとも携帯が鳴ったからかは分からないが仁王は私から離れて「出掛けてくる」と言い立ち上がった。

「合い鍵持って行きなさいな、私は明日も仕事だから休むし」

「‥‥早めに帰る」

「ベッドに潜り込んで来るのは構わないけど、お願いだからシャワー浴びて着替えてからにしてよね。香水臭いの嫌だよ」

「おん」

そんな悪友な関係が私は好きだった、何年付き合っても仁王だけはよく分からない奴なのだ。不意にいなくなってはフラリと来て、部屋だって広くはないのに勝手に居場所としている。学生の頃はテニスに打ち込んでいて、真面目な仁王を見たのはあの時だけだった。

「じゃあの」「いってらっしゃい」


親友以上の悪友

仁王だけは何年一緒にいても身体を求めてこないし、一度だってそんな仲になってもこの関係は変わらないのだろうなと自負していた。


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あきゅろす。
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