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02.貴方達のために出来ること(双子)

「(‥さて、どうしようかな)」

キッチンで鍋をかき混ぜながら(ちなみに今日はカレー)ユエは悩んでいた。今日の食事の内容ではなく、明日の予定、正しくは明日の夜、の予定だ。

二人は忘れているかもしれないが、明日は双子の誕生日だった。密かにカウントダウンをしていたし、ケーキも手作りがいいと思って簡単なレシピを手に入れていた。軽く柔かなシフォンのスポンジをベースにすれば、甘いものの苦手なバージルも食べられるはずだと思いながら、考えているのは料理と、‥とくにプレゼントは悩み所だった。

「(‥二人の欲しそうなものってわかんないよ)」

昨日、二人の部屋をじっくり見てみても、バージルは書物だろうし、ダンテは‥、ごちゃごちゃし過ぎていて捜索不能だった。取り敢えず、ゴミ袋片手に片付けて小綺麗にはしてみたが、きっと3日と持たないだろう。

「(‥わかんないなー)」

美味しい料理、それだけでは嫌なのだ。アクセサリーも考えたのだが、うっかり二人の指のサイズなんて聞いたらそのまま結婚式の段取りまで話が進んでしまいそうで怖かった。あのふたりならやりかねない(でもちょっぴり嬉しい)とユエは妄想を掻き消すように頭上を手で払う。それにきっと、戦いのなかで無くしたりすることだってあるだろう。

「ああああ‥弱った。」

悩んだ末、結局は、美味しい料理とユエ自身のサイズのピンキーリングを三種類買って鎖に通したネックレスだった。二人の絆は千切れない、が売り文句のブランドのチェーン(他社の2倍の値段)を奮発して、きちんと包装紙もピンクと水色にしてもらった。

「‥喜んでくれるかは別だけどね」


当日、二人は普段通りに仕事のようだった。夜には帰ってきてねと朝にはバージルを昼頃にはダンテを送り出して、ユエは早速調理に掛かった。

「(HappyBirthday‥)」

当人たちが誕生日を嬉しがるかどうかなんて少女にはわからなかった。半人半魔で辛い運命を背負って来たのだろう。それでも、少女にとっては二人が生まれた大切な日で、祝ってあげたかった。




「‥遅いな」

うとうととした眠りから目を覚ますと、ユエが祖国から取り寄せた古いタイプの小さな柱時計が11回鳴って、あと1時間で今日が終わることを知らせる。夕方には終わっていた調理も全て片付けてあって、帰ってきたら起こしてくれるだろうとユエはワザワザ、リビングで横になっていたのにと伸びをして起き上がる。

「‥ばーか」

膝を抱えて丸くなり、顔を埋めれば本当に寂しくなってしまった。もしかしたら、日付が変わってしまっても仕方がない仕事なのかもしれないと自分に言い聞かせながら、ユエはまたうとうととし始めてしまった。

二人が帰宅したのは深夜を回っていた。ソファに毛布を持ち込んで眠っていたユエに驚きながら、風邪を引くぞとバージルが声をかけようと手を伸ばす。ダンテの「おにーさまっ」と言う小声と手招きに顔を上げて気色悪いと溜め息をつきながらダンテの横から冷蔵庫を覗き、目を丸くした。

冷蔵庫には、可愛らしいケーキが飾り付けられて入っていた。HappyBirthdayダーリンというプレートに二人は表情が和らいでしまう。

今日と言う日がユエにとってどれだけ大切だったかを昨年の誕生日の時に悪酔いしたユエに永遠と語られたのを二人はすっかり忘れていたのだ。同じことを繰り返してしまったのだと気付いた頃に、ユエの声が響いた。

「‥帰ってきたの?」

「「ユエ!」」

「ごめんっ」

「すまなかった」

ガバッと抱き締められてユエは寝起きの回らない頭で「HappyBirthday」と呟いた。

「ユエ、ありがとう」

「ありがとう」


抱き上げられて、三人でユエのベッドに倒れ込む。

「あした、三人で食べようね」

副題:一日遅れのBirthday。


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