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1.優しすぎるキミは私を苦しめる(ミサキ+黒瀬)

古い世代を生きる私やヒグレ逹は、自らを慕い尽くす奴隷(例え強制的に自我をなくさせ命令されているとしても)--レンフィールドを作らなければ生きていけない。

作らなくても構わないのだけど、生活が堕落するからね、殆どの同族はソレを所持している。新生したばかりのミサキという少女は未だに作っていないらしいが、まぁ、それもまた道だろう。

「ユエ、今日は何を作ったの?」

「ミサキ、君は私を菓子作りと勘違いしていないかい?」

「クロエだって、ユエの作るお菓子大好きなのよ」

「(それは、取り合いになるから作ってこいと言う命令?)」

新生したばかりの少女--ミサキは何かと私やヒグレから学ぶことが多い。本来なら血親がそばにいるはずなのだが、この娘の血親は特別なのだ。

「(懐かしい香りがする)」

ミサキの血親は私の最愛のヒトだった。今はどこにいるか分からないけど、彼女の纏う血脈--ストラルーダ--は私を限りなく狂わせる。最強の魔法使いクロエの元を離れて、新生したばかりの小娘を守るようにしているのは、生かしておけば、いつか会えるかもしれないからだ。例えソレが何十年何百年先であっても、この命が続く限りに私は諦めないだろう。

「ユエ、どうかした?」

「何でもない」

いつでも、この小娘を裏切って“彼”に会いに行ける準備はしてある。ただ、小娘の騎士が少々厄介なのだ。

「(彼女と同じ名前、まさかこんなところで会えるとは‥ね)」

少女は(我らからしたら)最悪の騎士を持っていた。あの魔法使いクロエの弟子、魅了の効かないその眼、敵に回したくない相手だろう。それでも、吸血鬼絡みの事件によく足を突っ込んでいるし、とうとう古い世代まで殺しに掛かっていた。

「ユエ?」

「あ、いや、なんでもないんだ」

美味しそうに菓子を食べるミサキ。こんなに信用されきっているのも考えものなのだが、黒瀬といいミサキといい、私がどれだけ怖い吸血鬼なのか知らないのか?


「ユエ、今度はケーキがいいわ」

「‥‥はいはい、お嬢さま」

「ミサキ、あんまり我儘言うなよ」

いつの間にか帰ってきていた家主は呆れた表情でミサキに言う。着替えを済ませており、ソファーに腰を下ろすと、カゴの中の菓子を摘まむ。

「黒瀬、アンタも私を信用しすぎているよ」

「ん?」

「私は本当は怖い吸血鬼なんだよ?菓子に毒をいれることだって容易い」

「ああ、今ここで俺らを殺してもメリットがないだろう?」

「そういう問題ではないのだが‥」

紅茶に口をつけて黒瀬は一流だなと呟く。

「俺を、クロエを、ミサキを裏切る必要はない。だろ?」

「‥黒瀬、いつか、その甘さが命取りになる」


はいはいと空返事にまたひとつ菓子を摘まむ。本当にこの人間は甘ちゃんだ、単なる脅しで終わると思っているんだろうか。
優しすぎるキミは私を苦しめる

(‥暫くは裏切る必要もないんだけどさ)





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あきゅろす。
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