妄想SS/short
雨の日。(桃城×海堂)
「マジで降ってきやがった……」
「どうかしたのかい、海堂。」
授業中、窓の外を眺めていたら雨が降ってきたので無意識の内に呟いてしまった所を授業担当の竜崎先生に聞かれてしまった。
「いえ…すいません。なんでもねぇっス。」
海堂の珍しい失態に一緒教室内のあちらこちらから笑みが零れる。
海堂はそんな事はお構いなしに空を見た。
《これじゃ、部活やれねぇじゃねぇかよ…》
小さな溜息を漏らし、再び授業に集中する様に努める。
なんとなく、今日は部活が出来ないのは覚悟していたが、実際に出来ないとなるとツマらない。
『薫さん、ハイ。』
『…何コレ。』
『傘よ?』
『いや、そうじゃなくて…』
今朝、家を出る時に母親から弁当と一緒に傘を渡された。
『今日は午後から雨が降るらしいから、帰りは気をつけてね。』
不意に今朝の母親とのやり取りを思い出す。
素直に傘を受け取っておいて良かったと思うと同時に母親の気遣いに感謝する。
授業が終わり、掃除をしながらも時々、窓の外を眺めた。
雨は止むどころか、勢い良く降り続いている。
ホームルームが終わって一応部室に行こうと荷物をまとめるが、大石が今日の部活は休みだと知らせに来てくれた。
《帰るか…》
普通の中学生ならば、こういう時こそ、ここぞと言わんばかりに友人と遊んだりするのだろうが、今の海堂には帰宅して、部活やランニングが出来ない分の筋トレをしようという考えしかなかった。
「おっ、海堂。いいモン持ってんな。俺も入れてくれ!」
傘をさし、校門を出たところで自転車に乗った桃城に声を掛けられる。
カッパも着ずに、傘もささずに自転車に乗っていた桃城の姿に海堂は溜息を漏らした。
「なんで俺が…大体、もう濡れてんだから、そのまま帰ったって変わらねぇ…って、オイ!」
海堂の言葉をハイハイと聞き流し、桃城は自転車から降りて海堂の傘の中に入る。
そんな桃城に海堂はまた溜息を漏らし、部活で使うはずだったタオルを鞄から片手で器用に取りだし桃城に差し出す。
「使え。俺まで濡れる。」
悪態こそ吐くものの、言葉には現さない海堂の優しさに桃城から笑みが零れた。
「さんきゅ。なぁ、このまま一緒に帰ろうぜ。」
自転車を引き、前方を注意しながら海堂の方を向き問い掛ける桃城に海堂は俯いてしまう。
「今日、越前はいいのかよ…」
「あぁ、アイツ委員会だってよ。」
この二人が付き合い出して数ヵ月。
お互い部活が忙しく、いままで二人で一緒に行動するという事がほとんどなかった。
桃城は登下校はほぼ越前と…海堂は登校は一人だが、下校時は乾と一緒に帰り、アドバイスをして貰うという事がほとんどで、二人で下校などという事はなかった。
いままで、お互いが忙しいにしろ、この関係が続いていた方が不思議である。
毎日、部活では顔を合わせ練習するが、部活での練習に私情を挟むワケには行かない。
学校の休み時間も、桃城の人間関係を考えると海堂と二人きりになるという事はありえない。
付き合い出して、初めての恋人同士らしい時間。
「「……。」」
お互い何を言っていいのかわからない。
言葉は交わさなくとも、同じ時間を共有出来るというだけで幸せだった。
「今日、俺ん家寄ってかねぇか?」
長い沈黙を破ったのは海堂の誘いの言葉だった。
顔を紅潮させ俯く海堂に桃城は嬉しそうに笑みを漏らし頷いた。
「マジでいいのか?すげぇ嬉しい。」
そして二人は、また黙ったまま海堂の自宅に向かって歩く。
雨の日のツマらない日。
非日常だけれども、君の新たな一面を見れた雨の日の午後。
たまにはこんな日もありかなと思ってしまう。
二人で一緒に過ごす静かな時間はとても新鮮で、心休まる一時だった。
fin.
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