妄想SS/short
嘘。(仁王⇔柳生)
「柳生〜。」

今日は部活が休みなので、仁王くんとワタシの部屋で次回のテストに向け勉強をしている訳なのですが…


「聞いとるけ柳生?」


これでは、集中出来ません。
先程から、愛しい君に愛の言葉を紡がれているのですから。


「好いとぉよ。」

「そうですか。ありがとうございます。」


素っ気無く返す私に貴方はムッとした表情で眉を潜めます。


「なんね、柳生は俺の事、好きじゃなかと?」

「貴方の事は好きですし、大切な人ですよ。ダブルスのパートナーとして。」


そんなアナタの表情すら愛しく思えてしまい、頬が緩んでしまいますよ。
私は君から英語の教科書へ視線を戻し、重要単語にチェックを入れていれば、しばらく黙って君も勉強を進めます。
この二人きりの空間がいつまでも続けばいいと思うのに…


「これ、柳生!」


教科書を君に奪われてしまいました。
これでは勉強が出来ないではないですか。
勉強をするという口実で一緒にいるのでですよ。私から君と一緒にいれる口実を奪わないで下さい。


「なんでしょう。仁王くん。」


中指で眼鏡のブリッチを押し上げ彼を見つめれば、君の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて…
不覚にも、君に掛ける言葉が見当たりません。


「俺はお前を愛しとぉよ…柳生。この気持ちは本気じゃ。嘘じゃなか。」


自分の荷物を素早くまとめ、驚く私を置いて部屋を出て行く君を引き止める勇気も術も私にはありません。
ゆっくりと立上がり、窓から我家を出て行く君の後ろ姿を見送るだけです。


「私だって、貴方を愛していますよ。仁王くん…」


君の気持ちは私には伝わっています。
君が本当に私を愛して下さっている事もわかっています。

ただ、怖いのです。
私が君に『愛してる』と気持ちを告げれば、君はその言葉に満足してしまって
君の関心は他の誰かに行ってしまうのではないかと思うのです…

君に好意を持った女性達の様に、最初はコチラの気持ちに付き合って下さっても
君に飽きられ、面倒臭くなられ、すぐに捨てられるのではないかと…

怖いのです。

今までの君の恋愛を知っている私だからこの様な考えが纏りつくのでしょうか…?


本当は今すぐにでも駆け出して、君の背中を抱き締めたいです。

しかし、臆病な私にはソレは叶わぬ事です。

今日も君を泣かせてしまいましたね…

自分を偽る所為で
自分を傷付けない為に

自分を守る為に今日も君に嘘をつく。


『ダブルスのパートナーとしてではなく、柳生比呂士として貴方を愛しています。』


そう言えたのなら、どれ程楽な事でしょう。
この今の関係を進める事も、壊す事も出来ない私を許して下さい。

君に気持ちが届かなくて構いません。
この気持ちを君に伝える気もありません。
ただ、私の目の届く内は



私以外の誰かのモノにはならないで欲しい。


ソレだけです。





fin...




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