捧げ小説
10101Hit*唯姫リク(木手×平古場甘)
後3p。
後3pが届かない…
部活も無事に終わり、俺と平古場くんは部室の戸締まりをし二人で学校を後にする。
俺達は帰宅路を急ぐ訳でもなく、遠回りをして海に寄る事にした。
堤防を歩く平古場くんと俺の距離は、手を伸ばしても後3p届かない微妙なもの。
平古場くんは気付いているだろうか?
俺が先程から何度も手を伸ばしている事を。
「今日も監督はワジワジー。」
「平古場くん、それは思っても言葉に出すものじゃないよ。」
「だってよー…」
「だってもヘチマも…ゴーヤ食わすよ?」
鞄に手を遣ればゴーヤの気配を察知してか堤防の先まで逃げてしまう平古場くん。
今まで後3pが届かなかったのに、今はハッキリ顔すら見えないでぼやけている。
「ゴーヤだけは勘弁!」
遠くで大声で叫び微笑む平古場くんと夕日で輝く海が、余りにも幻想的で神秘的で、そのまま消えてしまうのではないかと錯覚した。
――このまま、手の届かない所に行ってしまったらどうしよう。
俺は一生、手を後3p届かせなかった事を後悔する。
「嫌われてしまいましたか…」
「永四郎はシチやんど、ゴーヤは勘弁。」
平古場くんに追い付いて、お互い顔を見合わせ笑って、二人でキラキラと輝く紅い海を眺めた。
俺は、後3pに戸惑いながら。
見る見る間に変わる自然の表情。変わらない君。
綺麗な平古場くんと海を見ていたら、ほんの少し俺に足りないモノが満たされてきた。
俺は何を考えていたんだろうね。
たかが3pなんて、勇気を出せば君を抱き締められる距離じゃないか…
俺は、力任せに平古場くんを抱きしめた。その瞬間、真っ赤に染まる平古場くんの顔。
「永四郎、誰かに見られるど?」
「構わない…」
君が消えてしまいそうだったなんて、流石に言えないけど…
君が消えてしまうなんて俺は嫌だから、この腕に君の存在があると実感させて。
「ダメ。」
「なんで?」
「海が見てる…」
先程まで燃える様だった海は、次第に紫を帯び、闇に包まれようとしている。
「俺から君を取り上げないで…」
「永四郎からワンを取り上げるなんて、命知らずな奴がする事だば…」
俺は、そのまま太陽が完全に沈むまで平古場くんを抱きしめ続けた。
日が完全に沈むまで、何度もキスをした。この腕を解いたら、また明日まで君の笑顔を取り上げられてしまうから。
一緒に居る"今"
君の存在を俺の五感全てに焼き付けさせて。
そして、また
明日は明日の君を俺に…
End.
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