捧げ小説
6000Hit*紗雅羅姫リク(柳×柳生)
「柳君、もう少し上を向いて下さい。」


比呂士が俺の顎を指先で上に向ける。
俺の顔は自然と上を向いて、比呂士と視線が合う。


「柳君、目をつむって居て頂かなくては、しにくいですよ…」

「ふむ…」


比呂士が俺の前髪を切ってくれるのも、これが五度目。
大分比呂士の手つきも慣れて来た様だ。

部員が帰った部室で、俺は広げた新聞紙を両手で持ちながら比呂士に前髪を切って貰うのがとても好きになっていた。

元々、比呂士とは中等部入学からの付き合いだ。
周囲よりも大人らしい比呂士とは妙に気が合った。
お互い恋愛感情を抱くまで、そう長くは掛からなかった。

比呂士の家柄等を考えると
何故、この様な男がテニスをするのだろうかと思った事もあったが、今は側に居てくれるのが心地良い。
仁王が比呂士にベタベタとする事は気に喰わないが…



『柳君、前髪が大分伸びましたね。切って差し上げましょうか?』
髪を切って貰うきっかけは比呂士のこの言葉。
いつもの如く、比呂士が文庫本を読みながら俺が部誌を書き終わるのを待っている時の事だった。
俺の前髪が気になったのだろう。
不意に俺の方に手を伸ばし、俺の前髪を撫でたり指先に絡めたりしながら比呂士は上目使いに俺を見てくるものだから、俺は返事の代わりに比呂士の額へ接吻を一つ落とした。

比呂士の俺への配慮が、俺の胸をキュッと締め付けるのも気分が良い。
何より、待つ間に比呂士が俺の事を見ていてくれたのが嬉しかった。


貞治は今の髪型を変だと思っている様だが、俺は気に入っている。
床屋へ行っても、比呂士に前髪を切って貰いたくて、前髪だけは切らずに帰って来てしまう事もしばしばある。


「柳君、終わりましたよ。」


コト―
ハサミを机の上に置く音。
サラ―
比呂士が俺の前髪から切った髪を払う音。

全てが愛しい―――


「ありがとう。」

「いえ、不器用で申し訳ないですよ。」


微笑む比呂士に小さく会釈し、新聞紙を丸めてゴミ箱に押し込んだ。

俺の汚い比呂士への想いも、丸めて捨てれれば楽なのだが…


「比呂士、好きだ。」

「私も、柳君が好きです。」


触れるだけの比呂士からの口付け。
解っている。解ってはいるのだが…足りない。
比呂士の整った顔を…表情を歪ませてやりたい。


「比呂士、愛している…」


俺の歪んだ愛情を比呂士が知っているかは定かではないが
俺が比呂士を逃す確率
否…0%だ。

比呂士、俺はお前を逃がさない。
俺が溺れた様に、お前にも底の見えない俺の愛に溺れて貰う。


「気の狂う程に、お前だけを…」









end...





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