柳生海小説
夢と現実の境界線。sideK
このまま時間が止まっちまえばいいのに…


「もし、全国で対戦する事になったとしても…きっと私は一選手として君に挑みます。」

「何…当たり前の事言ってんスか。逆に、手加減される方が嫌っス。」


柳生さんが好きなのは
テニスプレイヤーの海堂薫?
海堂薫っていう人間?

出来れば後者であって欲しい…


汗が引いてから片付けを始める。
一緒に居られんのも後は駅まで…


「また、メールします。」

「っス…」


さっきまで俺の髪を撫でていた柳生さんの手を捕まえて、そっと掌に口付けた。
テニスを抜きにすれば、こんなにも好きで仕方ない…


「海堂くん?」

「駅まで送ってく。」

「いえ、ここから通りにさえ出てしまえば一人で駅に行けます。」

「もっと、一緒に居させてくれ。」

「駅まで君が見送ってくれたら、きっと君を掠ってしまいますよ…」


柳生さんの言葉は、とても冗談には聞こえなくて…

嗚呼、なんて幸せなんだろうと思えた。


「構わねぇ…」

「いつか私が自立出来る日まで、その言葉はとっておいて下さいね。」


柳生さんの言葉に俺はただ、頷く事しか出来ない。
その"いつか"を夢見て…

恋愛なんて馬鹿馬鹿しいと思ってた。
恋愛なんて所詮は性欲の言い訳だって、どこか軽蔑してた。
でも、今は違う…

ただ、側に居るだけで幸せになれる愛しい人を見つけたから―――


では。と振り返る事も無く歩いて行く柳生さんの背中を見送る。


柳生さんの背中が見えなくなって、空を仰いだ。
一人になって馬鹿な考えが頭を過ぎる。

本当は柳生比呂士という人間は居なくって、立海の幸村は健康で、レギュラーで関東大会にも出場。
ABCオープンで六ヶ丘に試合を申し込まれたのも俺一人で。
今日も、いつもの練習をする為に此処に来た―――

今までの苦しい思いも涙も
手に入れた温もりさえ、全てが夢だった。


なんて、ある訳ねぇのに…


「どうかしてる…」


馬鹿馬鹿しい自分が可笑しくて自嘲の苦笑が漏れた。

大丈夫、俺の唇にあの人の温もりが残ってるから。





fin...





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