柳生海小説
欲しい言葉
「薫、愛しています。」

「俺も…」


私はよく、彼に愛していると言う。
しかし、彼はそれに「愛している」とは答えてくれない。
いつも「俺も」だとか「好き」とは言ってはくれるが…「愛している」とだけは言ってくれない。


「薫、ちゃんと応えて下さい。」


ちゅっと薫の唇にキスを落とせば顔を紅く染め俯いてしまう。
何度も何度も口付けを交わしたのに、薫の反応は付き合い始めた頃から変わらない。


「薫、言って下さい…」

…比呂士さんが、好き…


薫の頬を両手で包み込み自分の方に顔を向かせる。


「薫、私は君に"愛している"と言って欲しいです。そう望んで止まないのは我儘でしょうか…?」


薫が恥ずかしがり屋なのは知っている。それでも望まずにはいられない。
私は『好き』と『愛してる』は別次元だと思っていて、薫は私を『愛して』くれていると分かってはいても、やはり言葉にして欲しいのだ。


「薫、愛してる。世界中で誰よりも君だけを…」

「比呂士さん…」


好きで好きで好きで、愛しくて仕方がない。
薫が気安く愛の言葉を紡いでくれるては思っていないが、やはり心配と不安で押し潰されそうになる。
自分が薫にとって特別な存在であると実感したい。
それは私の自己満足でしかないのだけれど…


「薫…」


言ってくれそうにない薫を抱き締め直し肩に額を乗せる。
薫の鼓動が伝わってきて心地良い。
言葉で示してくれなくても、この温もりだけで…そう思い瞼を下ろす。


「…、だ…」

「え…?」


不意に薫の声と、その空気の震えが伝わってくる。


「俺、そういうの言うのも、言われんのも恥ずかしくって…」

「えぇ、」

「本当に、愛してるんだ…っ、愛してる、比呂士さんだけ…」


泣きそうな声で言う薫に顔を上げ触れるだけの口付けをする。


「君の愛は感じています。」

「本当っスか…?」

「はい。ただ、ごめんなさい。ヤキモチ妬きで…君の事になると自分の気持ちが抑えられない…愛しているんです。」


本当に情けないと思う。
言葉が欲しい為に愛しい人を泣かせそうになるなんて…でも、薫を好きだと思えば思う程、我儘になってる自分が居る。


「愛していますよ…」


何度も何度も何度も触れる様に口付けて、そっと強く抱きしめる。
前よりは欲しい言葉を聞けるかも知れないと思いながら、深く口付けた。





fin.




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あきゅろす。
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