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ゲームオーバー
2

「こんにちは」

空から声がした。僕より幼い、小学生くらいの声だ。
空は相変わらず曇っていて人影のようなものは確認できなかった。

「こんにちは」

もう一度声が聞こえた。真上だ。雲がかかって霞む石柱の頂点に、黒い影が見えた。

「だれ?」

僕が問いかけると、影は僕と石柱の間に滑り込むように降りてきた。地についた足から影は色を取り戻していく。不自然に灰色な世界に、少年だけが色をもっていた。仕立てのいいシャツを着てズボンはサスペンダーでずり下げている。首に巻いたスカーフは愛らしくリボンの形に結ばれていた。

「ここ、どこだか分かる?」

少年は人懐こい笑顔を浮かべて僕に問うた。大きな瞳がぱちりと瞬く。答えかねて黙っていたら、少年は言葉を続けた。

「君、死んだんだよ?」

少年の瞳は、嘘に濁ったりしなかった。揺らがない瞳が、発言は真実だと物語る。
「死んだ?」思いがけない言葉が頭に木霊する。

「君の生前の記録、届いてるよ」

少年は分厚い古書を取り出すと、おもむろにページを捲った。何行か目を通した後に僕の瞳を真っ直ぐ見据える。
そして、笑む。

「生前物凄くいいことをしたわけでも、悪いことをしたわけでもないみたいだね。ということは、君は灰色の住人になるわけだ。君には転生するまで時期を待ってもらいます」

HRの先生みたいにはっきりとした口調で告げられる。少年は「分かりました?」と小首を傾げて、満足そうに微笑んだ。
そして、石柱の間にブラインドがあるかのように紐を引く真似をはじめた。石柱の向こう側に違う景色が表れ始める。


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あきゅろす。
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