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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
27 *敗北/Loser*1
 授業終了と共にバッグと木刀を担いだジョーにレオが思い出したように声をかけた。

「あ、ジョー。この後付き合ってほしいんだけど」

「あーは、俺ってモテモテなんじゃない、そんな急に付き合ってくれだなんて。
 レオレオには悪いんだけど、俺今日先約があるんだ」

「バイト?」

「うんにゃ、お姉さまとデート。ぱいぱい」

 そのまま手を振って教室を出てしまうジョー。
 入れ替わるように珍しくユーキが入ってきて肩越しに振り返りながらスキップしていくジョーを見ていた。

「鳴滝君、相変わらずですねぇ」

「悔しいけど、英才教育受けてブイブイ成長してるのは確かだからね。腹立つ」

「おや、では朗報ですよ」

 ユーキが突き出してきた小さなダンボールの箱をレオは警戒しながら受け取り、中を開く。
 マトリョーシカのようにさらにこぎれいな箱がはいっておりまた開けると金色の装飾が走る黒いチョーカーが入っていた。
 取り出してみると、指先大のペリドットがぶら下がっており、内側に何やら両側に小さな突起がついている。
 興味津々に覗いてくるクロウ。新しいものになんでも目をキラキラさせるのはいいが、レオとしては不気味極まりない。

「変換器と復元器が一緒になったものです。例の、面白い実験してたじゃないですか。電気信号の。
 黒金先生が外注して作ってもらっていたみたいなんです。よかったですね、プレゼントしてもらえて」

「……ま、まぁ携帯電話じゃ限界あるだろうしね」

「レオちゃん、つけてつけて」

 チョーカーを入れ替えてつけると首筋にちくりと痛みが走った。
 何かの金具がくいついてピタリと固定した。

「なにこれ、なんかチクってしたんだけど」

「恐らく、毛細血管を射したんでしょう。ちゃんと使えるか試してみてください」

 にっこりと笑いながらユーキは視線をクロウに向けた。
 レオも同じようにクロウに向いて掌を彼に突き出した。

「え、ちょっと……やめてよ実験台とか……!」

 無言でレオはジョーに使ったのと同じ程度の電気信号を送ると応えるように窓がばたばたと震えてクロウは頭を抱え始めた。

「レオちゃん、これ……頭痛い……!」

 すぐに電気信号を止めたが、そんなにやったつもりはない。
 教室内、別の会話で盛り上がっていた他のクラスメイトも腰をついていたり壁にもたれかかったり、
 その場にいた全員が一斉に眩暈に見舞われていた。

「これすごい!」

「ははは、喜んでいたと黒金先生に伝えておきますよ。
 ああ、ただ、悪い事には使わないでくださいね。あなたはこれで、”見習い”の領域を逸脱しました。
 あなたのオーバーダズの能力は有能というより異常です。もっと力の使い方を考えなければなりませんね」

「……異常、ねぇ。忠告ありがと。改めて肝に銘じます」

「よろしい。では僕と菅原先生、それに黒金先生は難しい職員会議がありますので今日はこれにて」

 ようやく眩暈がおさまったのかクロウが頭をぶんぶん振ってきょとんとしていた。
 教室も不思議な現象が自分だけに起こったのかと一人ひとりが思っていつものざわつきを取り戻す。
 事なきを得てほっとしたレオはチョーカーに手を当ててユーキの言葉を復唱した。

「力の使い方、か……」

                    *              *             *

 教師一同が会議とあって大人しく帰る事にしたレオとクロウは下駄箱までおりて同時に足を止めた。
 そこには先にかえったはずのジョーがまだ携帯電話を片手にぽつんと立っており、哀愁を漂わせている。
 声をかけるのも気の毒なのだがそこを通らないと帰れないし、無視するわけにもいかなかった。

「どしたの」

「……いや、わかんないんだけどさ」

 ジョーが携帯電話の液晶を見せると、そこには一言「破門。」と書かれていた。
 レオは大層笑ったのだが、ジョーは肩を落とすというより、首をかしげている。

「おっかしいな、急にそんなこと言う人じゃないんだけどな……」

「あんたがまた余計な事言ったんじゃないの?」

「まさか。言ったとしても通用しない」

「どうだか〜」

「ちょっと、やめてよ。俺と姉さん程ラブラブな関係はないって。そんな急に破門だなんてなんか事情があるに決まってんだよ。
 あるいは変な電波拾っちゃったとかさ」

 どうしても不安をあおりたいレオだったが、そこにクロウがぶら下げられたままキラーンと目を光らせた。

「直接話した方がいいんじゃないかな」

 電話をかけろ、という意味だったのだがジョーは納得して靴を履き替えるとたったかと昇降口に走りだした。

「おい、どこ行くんだよ」

「ん? 直接話しに――」

 家に行く。
 言いかけてジョーは気まずい雰囲気に勘づいて軌道修正に片足を上げて小さくジャンプした。

「キャハっ! やっだ〜ん、ばっか〜ん。ヤボな事は聞かな・い・で」

 妙にハイテンションになったジョーにドスドスと疑惑の視線を突き付けたが、
 何事もなかったようにジョーは携帯電話を操作していた。
 そして何度かのコールののちに一方的に喋り始めた。

「もしもし、姉さん? 鳴滝です。破門ってどういう事? いまから行くからね」

「でたの?」

「ううん、留守電。ホント、どうしちゃったのかな……よし、とにかく行こう」

「…………」

 行こうってなんだ、そう言ってもジョーは悪徳セールスマンみたいな笑顔で強引に押し切るに違いない。
 それがわかってレオは呆れてため息をつき、クロウは助かったとやっぱりため息をついた。
 三人そろって校門を出たところ、五十代半ばの夫婦が血相を抱えた顔つきでチラシを渡してきた。

「すみません、この女の子を見ませんでした?」

 クロウが受け取り、それを覗き込んだレオとジョー。
 そこにはそばかすの浮いた少しぽっちゃりとした女性が映っていた。
 チラシを渡してきたおばさんによくにているが、そのチラシには行方不明者である事が書かれていた。

「わかんない」

「俺も」

「すみません、僕も覚えがないです……」

「そうですか……あの、もしヒトミを、この子を見かけたら連絡ください、よろしくお願いします」

 クロウがチラシを折りたたんでバッグに入れ、そのままつらつらとバス停まであるいていくとまた同じような行方不明者のチラシを受け取った。
 バスに乗りながら顔を合わせていると、レオが一瞬しかないチラシの情報を整理して指摘する。

「行方不明になった日付が一緒」

 言われてからクロウがチラシを出すと、確かに行方不明になった日は12月の半ばだった。

「……もしかして、字利家姉さんも行方不明に」

「50人相手にして大剣ぶん回す女性が何で事件に巻き込まれるの。犯人だったらまだしも」

「…………」

 クロウの顎を思い切り挟み、揺さぶって無言で撤回を求めるジョー。
 クロウが天然で空気が読めないのはわかっているはずなのに。
 横目でそんな光景を見ながら、レオはその二人の更なる共通点を見つけていた。

「……病院勤務、名前はひとみ」


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あきゅろす。
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