NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
14 *鴉羽/Crow*2
「出て来い、ギーメル! 相手してやるぜ!」
2046を構え絹夜は廊下を歩く。
ちりちりと剣先が当たった場所から火花が散った。
いらいらする。
誰にだってそうなのか?
誰にだって根拠のない安心を与えるのか?
とにかく分かったのは彼女にとって自分が特別な存在ではないことだけだ。
まるでその苛立ちを嘲笑するような、くすり、と笑う気配を察知して絹夜は振り返りざまに剣を薙いだ。
その研が受け止めたのはフリスビー程の大きさの光るリングだった。
特殊な形状な魔力だと察すると絹夜は両腕を魔力補正し盾にする。
斬り裂いたリングが左右に分かれてそのまま着弾した。
「ッ!」
反射的に体が動いて間に合った。
洋服が煙を上げている。
「クソ……気に入ってたんだぞ、このジャケット……」
「キャハ、あんたが黒金?」
廊下の奥から少女が現れる。
白い髪を二つに結った可愛らしい少女だった。
短いスカートでまるで戦闘要員とは思えないが先の攻撃からするに体術どうこうではないのだろう。
彼女の手にはロッドのようなものが握られており、先端は円形、そして光っていた。
「ギーメルギメル。それが正式名称なの。正しく呼びなさいよ」
彼女はクロウとは違って好戦的な性質らしい。
そしてギーメルギメルに忠実なメンバーらしく略されることを嫌っていた。
確かにクロウは何か含みのある、組織からしたら捨て駒になっても構わない特殊な立場だったのだろう。
「今機嫌が悪いんだ。引いた方が身のためだぜ」
「安心して。すぐ殺してあげるから」
ルゥルゥがロッドを振り上げた。
スローイングの度に光の輪が向かってくる。
「バラバ!」
それをバラバが応戦し銃で粉砕するがルゥルゥは踊る様にリングを乱射してきた。
バラバの支援を受け、絹夜は距離を詰める。
この娘、格段に弱い!
単体で乗り込んでくるなんてお笑いものだ!!
視線が合った一瞬を狙ってオクルスムンディを発動させるとルゥルゥはぎょっとした顔つきになった。
「手ぶらじゃ帰れねぇだろ。オクルスムンディをくれてやる。
ゆっくり味わって覚えて帰るんだな」
ぎちぎちとロッドを動かそうとするルゥルゥの顔に脂汗が浮いた。
クロウの情報が全てだと思っていたようだが、絹夜の能力は実際に浴びせかけられないとわからない。
いや、きっとこの娘には何が起きたのか理解出来ないだろう。
2046を喉元につきつけるとバラバを収めた。
「さて、その代りにギーメルについて吐いてもらおうか」
「ギーメルギメルだって言ってんでしょ」
「つまらん口答えすると為にならんぞ」
嫌だった。
これこそ10年前の自分じゃないか。
力、怒り、苛立ち。
そんなものに支配されて他人を拒絶した。
逆戻りじゃないか。
「誰が言うもんですか……!」
「なら舌噛み切って死ねばいい。吐けば生きて返してやるぞ」
「言わないって言ってんでしょ!」
「……力でしか解決出来ないんだ、今の俺は。
ギーメルギメルの情報を下さい、お願いします」
「……は、はぁ……? 何……? お前頭おかしいんじゃないの」
ぎりっと砂ッぽいものが涙腺を走った。
だめだ、これ以上魔力を押さえられない。
オクルスムンディの束縛が強まった。いや、暴走だ!!
ルゥルゥの顔色がさらに悪くなった。
そうだ、彼女の呼吸器官の自由さえ奪った。
だんだんとルゥルゥの顔が赤くなっていく。
「……ッ! なんでだ……!!」
そしてオクルスムンディ――絹夜の自由もオクルスムンディに支配されていた。
ルゥルゥの眼球が左右に振れ始めた。
無抵抗の相手を殺すのは初めてだ。
青い涙が零れた。
「クロカネーッ!!」
エキセントリックな咆哮と共に背中に柔らかいものが押しつけられた。
気がつけばがっしり組んだ両手が腰をがっしりクラッチしている。
つま先が浮いた。
「レオ!! そこでやったらマズいーッ!!」
ジョーの静止の声を無視して絹夜の視界は反転した。
これ、もしかして――German suplex!
「猛省しろおおぉぉおッ!!」
回避行動が間に合うわけもなく絹夜はそのままリノリウムの床に肩から落とされた。
体全体に起こる衝撃、頭がくらくらする。
「ゲホッ……ゲホッ……何、今の……! お兄ちゃん、調査を怠ってたのね……!!」
ジョーの後ろからクロウも駆け寄ってきたがぐったりしている絹夜と座り込んでむせっているルゥルゥの間で視線を泳がせ、
意を決したかルゥルゥの前に立つ。
「帰ってくれ。伯父様には何と報告しても構わない」
「……お兄ちゃん、ギーメルギメルを裏切るの……!? 家族を裏切るの!?」
「…………そうだね。ギーメルギメルと敵対したいわけじゃない。
でもそれ以上に、この人たちと闘いたくない。僕は自分で決めたんだ」
「お兄ちゃん……ゴールデンディザスターに惑わされたの……?」
するとルゥルゥの目が急に潤みだす。
「お兄ちゃんは、私と敵になっても全然なんとも思わないんだねッ!?
私のコト、守ってくれないんだね!?」
「……うん」
とうとうルゥルゥが声を上げて泣き始めた。
よろよろと立ち上がりロッドをもちなおすとキッとレオを睨みつける。
「覚えておきなさいよ! 絶対に、絶対に、アンタたちだけは許さないんだから!!
ひっぐ……お兄ちゃんなんか大嫌い!!」
そして窓を破ってそこから出て行ってしまった。
恨みがましい言葉を当てつけられたものの少し気の毒で追う気にもなれない。
しかし自分の意思で決めてしまったクロウは振り返ってレオとジョーに苦笑した。
「もうちょっと御厄介になるね」
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