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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
11 *須佐之男/Susanowo*4
 真っ暗だ。
 頭が鐘を打ったかのように響いている。
 なんて攻撃だ、ばらばらになりそうだ。
 その中に、真っ青な青い点が二つ浮いていた。
 瞬きすらしない二つの青い目。
 ――いくぞ。
 破壊と再生を司る”腐敗”の目。

「ジョーッ!!」

 遠いのか近いのかわからない距離からレオの怒号が聞こえた。
 目を開くと、そこには白い獣の腕が伸びている。
 そして、視界に入ったのはそれだけではなかった。
 両刃の剣。蔓の紋章。

「…………?」

 ガチガチと爪を立てる銀子の爪を巨大な剣が受け止めていた。
 剣を辿るとそこには随分と軽装の男が立っていた。
 1メートル強程度の長剣を軽々持ち上げているそれが自分の体から抜け出してそこに立っていることに
 ジョーはようやく気がつき、青ざめた。

「オーバーダズ……?」

 男がジョーに向く。
 伸びっぱなしなのかヤマアラシのような長い髪で顔はほとんど見えない。
 彼は頷き、それは恐ろしく俊敏な動きで銀子の腕を払った
 よろめいた銀子とジョーの間に入り、そこに剣を刺し構える。
 これ以上は進ませない。
 無言の威圧が理性のない銀子にさえ圧し掛かっていた。

「……天羽々斬(あまのはばきり)……スサノオか」

 やはり遠目から見ていた絹夜は大きな息を吐き出す。
 それが安堵の溜息のようにも思えた。

「あなたはオーバーダズを覚醒させるために?」

「いや……」

 では?
 そうさらに覗きこんできたイノリが見たのはあからさまな嘲笑だった。

「メンドーくさかった、だけ」

「…………照れ屋さんなのですね、黒金様は」

 自分を嘲り笑ったりしてまで。
 あえてそれ以上突っ込まず、イノリも大剣の武士に目を向けた。

「確固たる意志。守護の魂。二階堂様のセクメトと対称的です」

 視線を戦いの場に移す。
 立ち上がったジョー、そして彼のオーバーダズ、スサノオと銀子が向かい合っている。
 目を見開き、牙をむき出しにして銀子は距離をとっていた。
 威嚇し怯えすら見せている。
 一方、スサノオは剣を肩にかけるようにして立っているだけだ。

「銀子ちゃん、止めてやんよ! かかってきな!」

 ぺっと土を吐き出し、木刀を構えると、同じ動作でスサノオが動いた。

「……ぐ」

 唸る銀子、しかし前触れもなくどすんとスサノオに激突する。
 甲斐力を誇る人狼の両腕を木刀で受け止め、スサノオはその場に耐えた。
 銀子の牙がスサノオの剣をガチガチと鳴らす。
 そして、同時にジョーの木刀も軋み始めた。

「ジョー! 避けて態勢立て直しなよ!!」

 レオの罵声、しかしジョーはそのままそこで体を低くし、受け止めきる気だ。
 こうなってしまえば力の均衡が崩れるまで張り合うしかない。

「ば、バカ!」

 遠目から見ても木刀がしなっているのが分かるほどだった。
 それでもジョーには確信がある。

「俺は、退かねぇ……!!」

 それは自分の魂だ。
 木刀一本守るためにここで逃げたら折れるのは自分の心だ。
 オヤジは最低な男だが、曲がった人間ではなかった。
 黒金絹夜は酷く判りにくいが、優しくてブレない男だ。
 追いついて肩を並べたい。
 ここで下がればそれは一生叶わないだろう。

「ッ俺は……折れねぇ!」

 ずる、と銀子の腕が抜けてスサノオの顔面に伸びる。

「ジョー……!!」

 セクメトがその間に入ろうとするも間に合うはずもなく、鈍い音だけが響く。
 だが、スサノオは動かなかった。

「…………ヒーローってのは負けねえ! ヒーローなんだろうが!!」

 ほぼ無距離の状態からスサノオが剣を振りかざす。
 その柄が銀子の喉元を狙い、遠く吹き飛ばした。

「だから俺も負けねぇッ!!」

 土ぼこりを上げながら地面にたたきつけられた銀子。
 ごろごろと回転していくうちにその姿は元のお節介教師に戻っていた。
 べちゃりと地面にうつぶせたままで、またしても起き上がって噛みつくなんてことはないだろう。

「…………ジョー」

 振り返ると丁度セクメトが消えて、納得いかないような顔つきのレオだけが残っていた。

「ん?」

「無茶しすぎだよ! なにやってんの!」

「それ、レオが言う……?」

 う、とレオが黙って妙な沈黙が生まれた。
 その後ろではイノリが銀子を抱き上げ、着物のそで口で擦り傷の出来た頬を軽く叩き土ぼこりを落とす。

「う……」

 銀子は朧げに目を開くも、それ以上は出来ないほど疲弊しているようでそのままぐったりと力を抜いた。

「人狼……この方はどこでその呪を受けたのでしょうか……」

「…………。オリジナルだろう。自分でそうなっちまったんだ。
 使役されるにしては力が強すぎる」

「自分で望んで……それはまた奇なる業を行われたものです」

「…………」

 銀子の顔は苦しそうに歪んでいる。
 彼女はまだ何かと闘っているのだろう。

「イノリ、そいつを頼む。後で取りに来るから、厄介だったら屋上に置いておくなりしてくれ」

「お任せください」

 絹夜がようやくジョーとレオの前に立つ。
 当然と言わんばかりに彼は校舎を親指で指した。

「ウォーミングアップも済んだところだろう。いくぞ」

「え!? マジで言ってるのっ!?」

 満身創痍、とまではいかないが激しい戦闘が一件落着したところである。
 なんとまぁ無茶を言うものか。

                    *              *             *

「と、いうことで。よろしくおねがいしまーす」

 ぺこんとお辞儀した銀子に冷めた視線が突き刺さる。

「今なんつった」

 ようやく聞き返した絹夜に銀子は同じように言った。

「だからー、私もみんなと一緒に裏界にいって、世界を救う冒険の仲間になるんですっ」

「裏界いじくりまわして世界が救われるかよ。っつか世界ってなんだよ」

 ソファの側面に寄りかかる様にして立っている絹夜はくちゃくちゃとガムを噛んで指先もちりちりと落ち着きがない。
 煙草が吸いたくてイライラしているのは一目瞭然だ。

「まぁまぁ、裏界のことを知ってしまっては皆同じですからね」

「止めるのに怪我人が出るバーサーカーなんていらねぇんだよ!」

「減るもんじゃなし、そんな頭から否定しないでやんなよ、きぬやん」

「減る」

「何が」

「俺の精神がすり減る」

「…………」

「第一、興味本位で裏界に関わられると迷惑だ。下手して死体が出る話だ、お守なんてしてられねぇんだよ」

「興味本位じゃないです! 私には理由があります!
 狼を治したいです、この呪いを解きたいんです!」

 絹夜の表情がぴくりと動いた。
 そして銀子に視線を向けてずしりと威圧をかける。
 しかしそれも一瞬、絹夜は何事もなかったように保健室の出口に向かった。

「勝手にしろ」

 否応なしに重ねてしまう影があった。
 そいつは本当に勇気のないヘタレた男だったが、根性はあった。

「か、勝手にしちゃいますよっ!?」

 銀子の答えがようやく耳に届いたが、絹夜は何の反応も返さなかった。

「……役者が揃い始めている」

 盗賊、黒金絹夜。

「何のマネだ」

 未熟な魔女たち、二階堂レオ、鳴滝ジョー。
 真実の守護者、赤羽ユーキ。

「偶然か……?」

 夜明けの番人、イノリ。

「誰かの思惑か……?」

 人狼、菅原銀子。

「…………」

 神はすでに踏破したはずだ。
 自分は自由になったはずだ。

「操られているのか……?」

 振り返ると、不気味なほど廊下は静まりかえっていた。
 誰もいないまっすぐのびた道。
 異様な風景に思えた。
 9のゲート。
 9の魔術。
 9の組織。

「踊らされているのか……?」

 踊らされていることに何の恐怖もない。
 死んだって構わない。








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