NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA 6 *風見鶏/Tirol*3 「絹夜、あのさ」 地理教材室にもどって気まずい雰囲気をぶち破ったレオ。 ジョーも聞きたくて仕方無かったが、そんな勇気がなかった。 あからさまに絹夜は不機嫌だ。 「風見チロルって――」 「昔の友人だ」 言い終える前に答えた絹夜。 しかしその後の間がもたず、自ら白状した。 「……なんて形容したらいいかわからない、ただ俺にとって重要な事だった」 「重要な事……?」 大切な人、でなく、重要な事だったのにレオは軽く肩をすくめた。 ごまかしているんじゃないか、そんな表れだったが、絹夜は首を振り否定した。 そうじゃない、そうじゃない。 恐ろしいとさえ思っていた。 「彼女が何を考えていたのか今になってもわからないし、俺がどうにかしたいのはそういうことじゃない。 どの道、風見はいなくなったし、俺はそれを悲しんでいるわけじゃない」 ただ、くすぶっているものがある。 彼女に使うべきカードが手元に残っている。 今はその相手を探すだけだ。 手の中にあるこのカードを誰かに与えてあげたいだけなんだ。 それを人はなんと呼んだ。 「……なんだよ、俺の事に興味あんのか?」 「あるとかないとかじゃなくて……全然知らないけど、あんたの事なんか」 「……そう、だったな」 絹夜はジャケットとズボンのポケットを探りタバコを探したが見つかったのは空のケースだけだった。 それもごみ箱に放り込み、手を余す。 「難しい話じゃねぇんだよ、別に。 俺はただのゴロツキの一人で、こういう魔力の溜り場で危ない代物をほじくりかえすのが仕事みたいなもんだ。 そんだけなんだよ」 「……何で、私とジョーに力を貸してくれたの?」 「さぁ、ただの興味じゃないか」 二人を選んだわけじゃない。 彼らでなければならない理由はない。ただ、彼ら出会ってほしい願いは、今はある。 本当にただの興味だった。 淡白な絹夜の返答に不服だったか、絞り出すようにレオが何か質問を考えてる。 そしてようやく出てきたのは彼女らしからぬ事で絹夜とジョーの肝を抜いた。 「絹夜は……好きな人、いた?」 さばさばとした彼女の口からそんな話が出たことを意外に思った。 ただ、昔ならつまらないと笑っただろう。それだけはわかる。 だが、今はそんな事は出来なくなった。 「フラれたよ、つまんない男だって。大事に思い煩ってた。ただそれだけだ」 「…………」 穏やかで、ひどく後悔していて手の施し様のない重たい問題だった。 どうしてそんな事を言われたのかがわからなくて、しかし否定もできなかった。 心のどこかで彼女を崇拝していた。 彼女の言葉は絶対で、間違ったことは言っていなかった。 次はどんな辛辣な質問がとんでくるのだろう。 「絹夜、つまんなくないよ」 つるり、とレオははっきりと言ってのけた。 嘘だ。 頭の中ですぐに否定したが、心地よさだけは残った。 まるでぐちゃぐちゃになった傷に気休めの絆創膏を貼られた気分だ。 じゃあお前がそれを証明してくれるって言うのか? 俺の何が間違っているのか知らしめてくれるのか? 宛てのない暗い怒りをぶつけられず絹夜はまたしても誤魔化した。 「……腹減った。対対のラーメン食いに行こうぜ」 きりっとレオとジョーの眉がつりあがる。 空気を見計らっていたジョーがようやく口を出した。 「おごり? 今日、すごいおなか空いてるよ」 「当たり前だ」 小さい子供のようにきゃっきゃとしはじめるレオとジョー。 本当に食いもので簡単に動かせる連中だ。 二階堂レオ。 純粋で、破壊的で、怒っていて、それでいて寛大な。 地母神のような性質を持った娘だ。 * * * 校庭を見下ろす白い影。 携帯電話を耳に当てぼそぼそと話した。 「第二のゲートが開かれました。黒金絹夜の監視を続行します」 電話を切ってからため息をつく。 任務の為に送り込まれたというのに、不思議な気持ちに陥っていた。 <TO BE CONTENUDE!> [*前へ][次へ#] [戻る] |