NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
6 *風見鶏/Tirol*1
「ボールも友達いいぃぃぃ!!」
雄たけびを上げながら相手ゴールに突撃するジョー。
体育の授業中のサッカーでも非常に楽しそうにやっているので他の生徒も引き込まれる。
鳴滝丈という男にはそういった魅力があった。
笛の音と共に試合終了の合図、運動神経抜群のジョーは体育の授業で負け知らず。
後輩の女の子からもいつも黄色い声をあびている。
「鳴滝先輩かっこいいーッ!」
校舎からそんな声が飛んできて鼻の下を伸ばしながら手を振り返すと、横からクロウが小声で話しかけてきた。
「人気者なんだね、鳴滝くん……」
「ジョーでいいって」
クロウは病気がちな為もあってか体育は激しい運動はせず見学ばかりだ。
きっと彼がスポーツマンだったらあの後輩たちもクロウに流れていくのだろうな。
「あ、あの、このあと、お昼一緒に食べないかな。僕ちょっと……まだ他の人には声かけづらくって」
「はっは〜ん。お友達づくりに顔の広い俺からまず攻略しようという魂胆だな。
いいぜ、屋上いこうよ」
今日は幸い妹の春野が気まぐれか弁当を持たせてくれた。
妹自慢もついでにしてやろう。
クロウも弁当があるようでそれを持って屋上に上がる。
普段、ここはレオが出入している為、他の生徒は避けており人気がない。
気持ちのよい五月の陽気の下で妹が作った弁当を広げる小さな幸せ。
「よいですのお」
急に呟いたジョーにクロウは首を傾けていた。
そこで弁当を広げたジョーとクロウ。
女子生徒とだったらもっとよかったのに。
妄想しながら弁当のふたを開くと爆撃跡のミニチュアのようなものが入っていた。
「…………」
「ジョーくんのお弁当、なんか……全体的に黒いね」
「うーん、これは炭素だねえ。化学記号で言うと、”C”だねえ。
いやあ、炭素は大事だからね、ダイヤモンドとか…………炭とか」
妹を庇う為それを口にもっていく。
がりがりぼりぼりとまさしく炭素の触感がした。
ちなみに焦げカスを食すことは発がん性物質となる可能性のある成分を体に取り入れていることになる。
良い子はマネしないように。
「ははは、ジョーくん、面白いんだね。
人気者だし、なんでもできちゃうし、うらやましいな」
「何言ってんのよ。クロウちゃんも相当人気あるよ」
ふと、以前自殺未遂した少女の事を思い出した。
彼は恐らく彼女をふった。
だがその時の影は全く残っていなかった。
絹夜を疑うわけではないが、何かのまちがいなんじゃないか。
こでだけルックスがいいんだからそんなの日常茶飯事で、だから何とも思っていなかったのかもしれない。
彼の事も疑いたくはなかった。
そういえば彼は二階堂レオをどう思っているのだろう。
結果的に彼女は強引な形で巻き込まれた。
「クロウちゃん、つかぬ事をお伺いするが」
「ん?」
「何カップが好き?」
「な、に……カップって……?」
「バストだよ、バスト! おっぱい!
どのくらい大きいのが好きかってきいてんの!」
「え……ええぇ……」
我ながら予想外な切り口だ。
そう思っているジョーだが、結果的にクロウを混乱させた。
「べ、別に……どのくらいの大きさでも……その……。
そりゃあ、大きい方が……」
顔を赤くしながら視線を外しながらのクロウにジョーは悟った様な事を言った。
「いいんだよ。それが男と言うものだ。
ちなみに俺はDくらいがベストだと思う」
「ふ、ふうん……」
「クロウちゃん、君はこれから”Gカップが好き”と言いなさい」
「なんでG、なの」
「目測。二階堂レオの」
一瞬きょとんとして、しかしクロウはがっしりジョーの手を掴んだ。
堅い握手、それだけで男同士わかり合った。
その話はおいといて、と先に食事を片付けるとやっぱりその話に戻る。
「ただ、レオレオはマジで怖いよ。あいつは無差別だよ。ドSだよ。ツンデレとか期待したらダメだよ。
白旗の相手をゲラゲラ笑いながら足蹴にするのが趣味な女だからね」
晴天から目をそむけコンクリートの床を見ながらジョーは呟いた。
気が強くてそれでもか弱いなら今時のツンデレというやつで話は通じる。
彼女の場合、気が強くて力も強くてその上血の気が多い狂犬女である。
木甲漢高校で飛びひざ蹴りをかまされた時の事を思い出しぶるり、と腹の底が震えた。
きっと心配して助けに来てくれたのにトドメをさすなんて荒唐無稽もいいとこだ。
「みんな、そう噂してるね……」
「まぁ、乳か喧嘩の話はだいたいレオだからなぁ」
「…………ホントに喧嘩も強いんだ。
ぼ、僕なんか……相手にしてくれないんだろうな……」
本当だったら、大丈夫いきなり殴るような女じゃないって! と励ましたいところだったが、
このクロウの態度を見て、おどおどしてんじゃねぇ! と手を挙げるレオの姿が目に見えてジョーは黙ってしまった。
ただ、間違いなく仲が良くなればなるほど入れられるパンチの数が多いことだけは確かだ。
「レオレオねぇ……」
「ジョーくんはいつも、レオさんと一緒にいるし、つきあってるって噂もきくけど……」
「あー、ソレね。全然デマデマ。
人間がライオンと生活できないのと一緒なんだよ」
意味不明の理由を持ち出したジョーだが、予てからよくよく考えて出した持論なのだろう。
しかしクロウはその様子に穏やかに笑っていた。
「よかった……僕、頑張るよ!」
絶対殴る。少なからず蹴る。どんなに頑張っても怪我は絶えない。
本人が前向きなのでジョーは結論を飲み込んだ。
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