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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
19 *遺産/Legacy*3
 姿形を確かめる前にパソコンを抱えたエリオスを始め、ユリカやクロウ達が青い顔をして飛び込んでくる。
 先ほど癇癪を起こして出ていったはずのひとみも銀子に首根っこ捕まれていた。

「やっぱり違いましたわね!」

 少しばかり安心したように、しかし大きな声を上げながらユリカはレオの肩を掴んだ。

「なんなんだよ、お前ら。昨日散々かき回しといて」

 ジョーのくれてやった嫌みを全員揃って首を振り、それどころではないとそれぞれ訴えた。

「とにかくこれを見てくれ!」

 膳をよけてLANケーブルの刺さったままのノートパソコンを置いたエリオス。
 絹夜とジョーは彼がパソコンを操作するのを覗き込む。
 むずがるように絹夜の腕を引っ張ったレオだが、絹夜は面倒臭がり露骨に垂れ下がっていたLANケーブルを彼女の口に突っ込んだ。

「レガシィの板に上がっていたんだ。ほんの数十分前、ギリシャの美術館が襲われた。その時の防犯カメラの映像だ」

 マウスを操作する音が止まる。
 するとパソコンの画面には防犯カメラにしては質のいい画像が再生される。
 静かなクラシックが流れ、落ち着いた雰囲気の中で観光客達が展示物の間をちんたら歩いていた。
 斜め上からのアングルは入り口から差し込む光を含めた広範囲を見ているようだった。

「襲われた?」

「しっ!」

 至って平和そうな様子にジョーが口を挟むと、
 エリオスがビームでも放ちそうな熱のこもった目でにらみ返し、人差し指を唇にあてた。
 すると、パソコンの画面内では静かな世界にかつん、と尖った足音が響く。
 一歩、二歩と歩くうちに周囲は異変に気がついてそちらに視線を向けた。
 姿をした現したのは、エキゾチックなトラキア系の女だった。
 鋭く尖った美貌、小さなコウモリを従えた、まるでまさしくハイパーレガシィだった。

「え、これっ、えっ!」

 映像の右下端には確かに数十分前の数字が書かれている。
 その時レオは確かに白飯をもぐもぐやっていたはずだ。
 そこで絹夜は何か思い当たったか、ぐっと口をつぐみ、そしてレオはLANケーブルをガリガリと奥歯でかじり始めていた。
 レガシィが右腕を挙げると細いその腕にマシンガンが収まる。
 観光客は叫び声を上げ、警備員が彼女を取り囲んだ。

「フリーズ!」

 レガシィはそよ風のように聞き流して左手で髪をかきあげ、それを合図に音に僅かなノイズが走ったかと思うと
 突然クラッシックは停止し、入れ替わるようにエッジの利いたビートが流れ出す。

「フリーズ!!」

 しかし彼女は身体でビートを刻む。
 キチガイな女にしては、腕に装着している武器がぶっ飛び過ぎている。
 そう警備員達は思っていただろう、次の瞬間、レガシィは動いた。
 右に左に銃弾を叩きつけ、ガラスケースを打ち破る。
 警報までもがBGMに華を添え、舞台が整うと彼女の黄緑色の目がぎらりと光った。
 ゴールデンディザスター!
 次々に警備員達は銃を下ろし、かつかつと正面から乗り込む彼女の後ろをゾンビのようについていく。
 ビートに合わせてステップを踏み、レガシィは展示物には一切手をつけず、ふと映像を映し出している防犯カメラに目を向けた。
 ニヤリと笑い、みている一同は少しのけぞる。
 そして何を思ったか彼女は右手を高々上げて見えない聞こえない電磁の命令を下した。
 警備員達がピっと背筋を伸ばしレガシィを戦闘にピラミッド型に配列すると彼女と同じようにビートに身体を揺らし始めた。
 曲のサビに入ると同時に右手左手を胸の前に当てるレガシィ。
 同じように警備員達も彼女の振りつけに合わせた。

「な」

 アップテンポの曲に合わせて盗賊レガシィは警備員をバックダンサーにして、
 今時のシンガーのプロモーションビデオ張りに踊っていた。
 手足を振り回す激しい動作で、ぶれなく少しずつ前進するレガシィとそのバックダンサー一行。
 唖然としながら画面を見ていた絹夜とジョー、そしてその後ろから何故かエリオスは興奮した面持ちで拳を握っていた。
 邪悪で、過激で、鮮やかで。
 こんなものネット上で流されたら彼女の影響はさらに広がっていくだろう。
 その下に続く書き込みもほぼ垂れ流しで、国籍無分別で、言葉の殴り合いだった。
 ビっと敬礼の振りつけをキメるレガシィと後ろの警備員。
 ゴールデンディザスターの力は視線が見える範囲――いや、このカメラ自体が反射して視線の媒介になっている!
 なんて魔力の無駄遣い。
 しかし一体こいつは何なんだ。
 曲も終盤に差し掛かると、警備員は彼女を中心にしてぱたりと倒れ、
 終わりと同時に防犯カメラ、すなわち一同に右手の指先を突きつけたレガシィだけが残った。
 そして彼女は一言告げた。

「待ってるわよ」

 その途端だった。
 ずお、と椅子を引いたかと思うと腰に刺された巨大な銃を抜いてレオはパソコンに向けるとゼロ距離で連射した。
 ダンダンダンダンダン、ダンダンダンダンダンダンダンダン!
 連続する銃声、硝煙、液晶画面、プラスチック、部品、もうなんだかよくわからない黒ずんだもの。
 激しい銃声は鳴滝家を20年支えてきた机と共にエリオスのパソコンを吹っ飛ばした。
 本当なら悲鳴を上げてもおかしくないジョーもエリオスも黙ってレオが銃口を、ふっと吹くのを見ていた。
 それほど唐突で皆が唖然としていた。
 硝煙がようやく匂いだけになったところで、糸が切れたかのように笑い声が上がった。

「あっはっはっはっは!
 最高だ、やっぱりお前!」

 絹夜は彼らしくも無く腹を抱えて笑っていた。
 何が笑いのつぼなのか、やはり彼以外には理解できず、爆笑する彼にも唖然としていた。


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あきゅろす。
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