NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA 18 *獅子/Lion*4 「今となってはもうわからない」 暗黒、というか奇妙奇天烈な混沌だった。 黒いマネキンの身体を積み上げた山の上、黒い少女が佇んでいた。 それを見上げてレガシィが彼女が何者で、自分が何者なのかよくわからなくなった。 黒い髪、黒い肌、どこからどう見ても悪者の、どこからどう見てもハイパーレガシィだった。 彼女は振り返りざま、サングラスをかけ直しながら、腕を組んでこちらを見下ろした。 「生きたいと思えば生きればいいじゃない。今まで通り」 彼女は相変わらず高慢な女王様だった。 使い捨てられた神の死体も積み上げどっしりそこに胡坐をかく。 彼女のマフラーの中でブサが鳴いて、頬をすりよせていた。 地獄の鬼も従えそうな彼女に届かぬ麓でレガシィはレガシィを見上げていた。 「あなたは誰?」 「あんたの確率から生まれ出たイーヴィル。”邪悪”のレガシィ、とでも名乗っておこうか」 「私なの?」 「あんたとはだいぶ違うだろう」 「どうして?」 「私は最初から”私”の中にはいない。 私は影。私は影響。 レガシィだけど、私は誰かの中にいる私。あんたはあんたの中にいる誰か」 「私は、誰か?」 「あんた、アンインストールされてぶっ壊されちゃったの。 ああ、ぶっ壊れちゃったらそれもわかんない、か。 ま、彼のお陰でかなりいい線で残ってるみたいだけどね。 私とあんたが同化すれば元の鞘に収まるんだけど、それはまだまだ先の未来」 よいしょ、と言いながら軽く立ち上がると彼女は髪をかきあげて片腕を腰に当てる。 そして一瞥と溜息で背中を向けた。 「どこにいくの……!?」 「ああ〜……どこにもいかない。強いて言うなら、元の影の持ち主の場所に戻るのよ。 さっきも言ったけど、私は”私”の中にいない私。 あんたが残してきた”影響”、”傷跡”、そして”想い出”」 「いなく、なるの……?」 「無になるって結構難しいことよ。散々証明してきたじゃない。 残念だけど、今は同化する事が出来ないの。ブサも私についてくってさ」 「え……」 やれやれ、と額に手を当てた彼女は肩越しに振り返った。 「そんなに取り戻したいなら、私はいくらでもどこにでも転がってる。 物質的な破壊、システム上のログ、人の心。 見つけ出してみなさいよ。あんたのレガシィってヤツをさ」 彼女は邪悪にニヤリと笑い、そして右腕を高々上げた。 うぉん、と重たい軌道音と共に禍々しい魔法陣が麓に立っていたレガシィを包む。 ちぃちぃ。 マフラーの中のブサが手を振っているようだった。 「あ、そうそう忘れてた」 軽い調子で彼女は言いながら光の中に埋もれていった。 「エウァンジェルレオンは一つ消し忘れたモノがあってさ。 いんや、忘れたっていうか元々理解できなかったっていうか――」 [*前へ][次へ#] [戻る] |