NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
18 *獅子/Lion*2
金属特有のざらついた感触に、絹夜は彼女がどんな覚悟でここに戻ってきたのかを改めて感じた。
ひどい有様だった。
泣いて伏せる間も無く立ち上がり、失った右腕を義手に変え、そして明るい未来だとか道徳だとか正義だとか
全部殺して儚い可能性一つを求めた。
一途な、邪悪な、煌びやかな。
「レオ、レオ!!」
虚ろな目をした彼女に呼びかけながら絹夜は閃光を掲げるレガシィの右腕をはねとばす。
もう一閃、絹夜は大剣をエウァンジェルレオンの身体に突き立てそこに足をかけた。
彼女の掲げた閃光は弱まり、次第にしぼむ。
エウァンジェルレオンの足元に埋まっていた時代の獅子が淡い光の柱を掲げた。
「止まっ……た?」
地上、期待と不安に満ち満ちた顔つきで漆黒の獅子の首を見上げる。
するとそれは、またしても無機質に詠唱した。
『エネルギー出力形態を再編成します。コア吸収作業に移行』
言葉の意味を理解するよりも早く絹夜はレガシィに手を伸ばした。
しかし彼女の体は警告通りにずぶりと腕の束に飲みこまれていく。
『時代の獅子』に影響されているレガシィを消去するつもりだ。
彼女が元素の集まりにされてしまう。
『収容後、プログラム変換に移行』
「やめろ……!」
手は届かず、指先がわずかに髪に触れただけだった。
『コアをアンインストールします』
「やめろ!!」
すぐ目の前にあったレガシィの身体はすっかり飲み込まれ、
地上の砂の上に彼女の義手が落ちているだけになった。
『残り98%……96%……』
腸の煮えくりかえりそうなカウントダウンだった。
血の匂い、冷たく凍えて砕けてしまいそうな心臓。
「あいつをどうしたって言うんだ!!」
感情のままに吠えた絹夜は2046を引き抜き落下と同時にバラバを身体に纏わせる。
顔面から白い羽が突き出した異形の姿は、かつて彼が魔力高揚の果てに至った忌むべき姿だった。
不釣り合いな程大きな銃が無音の銃声を上げて青いエネルギーを放つ。
怪獣が吐く閃光のようにエウァンジェルレオンの胸を直撃し、胴を貫通し、巨体が暴れる。
きらきらと舞い散る破片の一方、絹夜は反動で砂を巻き上げながら地面に何度も叩きつけられた。
どしん。
やはり両足が大地を震わせて怒りの咆哮が上がったが、しかし冷徹な女神の宣告は止まなかった。
『70%……75%……』
砂漠の中に打ちつけられた絹夜は数秒大の字のままぎらつく空を見上げていたが
やがて腕を目元にやってごしごし拭うと立ち上がり、歯を食いしばりながら嗚咽を飲みこもうとしていた。
まるで負けず嫌いな子供が強がっている、そんな様だった。
誰も何も言わずに武器を構える。
『64%……60%……』
彼女の強くて優しい背中に寄り掛かれば楽になれると思っていた。
彼女はそれを許すだろうし、そっと抱きしめてくれただろう。
奪うばかりで、求めるばかりで、甘えるばかりで、そんな自分に彼女は愛しいと言ってくれた。
殺してほしい、それが彼女の願いだとしても。
「俺はこのまま、あいつを失いたくはない……あいつが甘えてくれなきゃ意味が無いんだよ!」
寄り掛かりたかったんじゃない。
寄りかかり合いたかった。
あの力強さの、ライオンみたいな。
一人で戦う、ライオンみたいな。
『57%……54%……』
「バカ……一人で……」
むせ返る呼吸、止まらない涙に苛立ちは募ってまたむせ返る。
殺して。
そんな願い、絶対に叶えてやるものか。
顔を上げ、鋭く狙い定めた表情を見せたかと思うと絹夜は砂地を蹴った。
「レオーッ!!」
獅子の咆哮のようにその名を叫んで。
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