NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
17 *福音/Evangel*3
急に手足がしびれた。
不安そうに見上げてきたひとみに頷き返すと背後に控えていた仲間、
さらには法王庁の戦闘神父、シスターたちまでが一斉に武器を掲げる。
今度は足元が震えていた。
「わわ、きますよ!」
そんな事を言う銀子を脅すようにどん、と一つ突きあげられたかと思うと日天に照らされた大理石の上の魔法陣が光を放った。
うずくまる様な姿勢で背後を振り返っている。
「レオちゃん……?」
クロウが眼の上に手を当てて覗きこんだまたその時、もう一度地面が突き上げられ
それを皮切りにどかん、どかんと地面が揺れる。
まるで地下で巨大な何かが暴れているような振動だったが、振動の正体はすぐに現れた。
同時に魔法陣に乗っていた人物も走り出す。
「……っ!」
黒髪、黒いジャケット、一年前に見たきりのそのままの姿の――黒金絹夜だった。
だが、彼が立っていた――否、クラウチングスタートの姿勢を構えていた魔法陣の真下が急に盛り上がり
砂のナイアガラを築いたかと思うと、砂煙の向こうに巨大な輪郭を見せた。
「天使……?」
誰かが呟く。
しかしその翼には翅脈が走り、いましがた羽化したと言わんばかりにくしゃくしゃに畳まれている。
身体は黒曜石が如く煌めき、蛍光色のラインが刻まれていた。
どすん、と前足を地面につけ地面を揺るがす。その正面を何度も振り返りながら走ってくる男にジョーは叫んだ。
「きぬやんッ!!」
間違いない!
一年前にこの先の時空間ヘラクレイオンに閉じ込められていた男、黒金絹夜だ!
だが再会を喜び合っている場合ではないことは誰もが承知。
ブランドものの靴で砂を蹴ってこちらに向かってきた彼はジョーの目の前で身体を反転させる。
「おはよう、きぬやん。お寝坊さんね」
「はン、起きるつもりじゃなかったんだがな」
減らず口を叩きあう二人の後ろ、雛彦が合図を出し各員、さらに戦車が武器を構えた。
「あ、あれは……まさか」
翅の生えた首なしの獅子、というべきなのだろうか。
メカニカルな四足の生き物、しかし絹夜はそのデザインにやや覚えがあった。
10年前、自分が倒した風見チロルのなれの果ても機械と動物が組み合わさったような姿をしていた。
そして触媒となった身体は獅子の首が鎮座するべきであろう場所で筋張った何本もの腕に両足をがんじがらめにされている。
両腕は垂れ下がっているので彼女の意識さえ戻れば抜け出す事も可能かもしれないがレガシィは薄目を開いたままうなだれている。
白い繭から手足が随分と離れていたところで突き出していた風見チロルとはことなり、
レガシィの身体そのものに損傷はないようだ。
「何なんですの……!?」
「あれが、邪神の姿なの……?」
もどかしかったが絹夜は端的に説明した。
「エヴァンジェルレオン。”福音の獅子”とでもいおうか。
とにかくアサドアスルやレオん中に入って復活しようとしてた人類抹殺プログラム」
そこで言葉を選び始めた絹夜だが、ひとみが役目を奪って口を挟んだ。
彼女の口調は妙に渇いており、ジョーも眉間を寄せるほどに不自然に低くトゲのある声色だった。
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