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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
16 *形象/GestaltPray*5
 優しく頬笑み、目から流れるペリドット色の涙は彼女の頬に炎のような紋様を浮かばせる。
 映像を巻き戻したように彼女の身体はふわりと浮いて、そのまま宙で直立した。
 同時にこげ茶色の長い髪も逆巻き漆黒の炎のように揺らめく。

「強制排除女神――福音の獅子エヴァンジェルレオン、インストール中」

 彼女の言葉は機械的で、しかし妙にはっきりしていて、その上聞いた事のある言葉の連鎖だった。
 福音の獅子。
 強制排除女神。
 絹夜の頭の中で十年前の出来事と、現在が派手な音を立てて合わさった。

「EVEANGEL-LION!」

 まさかどこにそんな可能性が生き残っていたのか。

「――インストール完了」

 跳ね返った金髪を馬鹿にすると子供のように顔を膨らませて怒った。
 童のように笑い、童のように怒り、そして成す術もなく”神”を植えられ敵の手に落ちてしまった。
 ――風見チロル。
 彼女の事を忘れられなかった。
 自分がもう少し強い人間であれば救えたはずだ、あんな別れ方をしなくて良かったはずだ。
 彼女の最後のノイズが耳に残っていた。
 目覚めぬ。堕落の夢に埋もれて沈むのだ。
 類似した黒い女神が目の前で絹夜の絶望を待っていた。

「何故……”神”は、全て滅びたはずだ」

 レガシィ――否、エヴァンジェルレオンは可愛らしく首を傾げ、そしてにこりと一つ微笑んだ。

「適切なプログラムが構成されていません」

「…………?」

 まさか。
 絹夜は眩暈を覚えた。
 10年前、風見チロルは『強制排除女神』を強制的にインストールさせられ、絹夜はバグだらけの女神を倒した。
 その時の『強制排除女神』のプログラムはどこから来たのか。
 その本当の持ち主は、目の前の”彼女”だったのではないか。
 そして本来、『強制排除女神』の運命を担っていたのは、風見チロルではなく二階堂礼穏だった。
 強引にプログラム――意志を奪われた”彼女”は抜け殻となってしまっていた。
 字利家ひとみが薄ぼんやりながら感づいていた”おかしな可能性”というのもこの事だったのだろう。
 後の祭りだ。

「10年前に、枠組みを残して死んでいた……?」

 エヴァンジェルレオンは冷たくまた、構成がどう、と口にした。

「そんなはずはないだろう! その身体の中には彼女が存在するはずだ!
 彼女を――レオを読み込め!」

「適切なプログラムが構成されていません。
 10秒後に、強制排除ルーチンに移行します」

 急に喉の奥がどっと渇いた。
 それの目的はやはり、この世界をぶっ潰して、どうだか知れないパラレルワールドを生かすことにある。

「くそ、参ったぜ……!」

 言葉とは裏腹に絹夜は聖剣2046を構える。

「強制排除ルーチン、実行まで5秒、4秒、3、2、1」

 生死の絶望はしなかった。
 どうしようもない絶望を乗り越えてきた彼女に、鼻で笑われないためにはどうしたらいいのか思いつきもしなかった。
 ただ一つだけ分かっている事。
 意味もわからない正義を敢行するために生れてきたのではない。
 与奪の全ての選択を背負い、それがどんなに重くても駆け抜ける。

「強制排除、開始」

 それが、彼女が教えてくれた与奪の力だ。

「楽しいパーティーになりそうだな」













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