NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
16 *形象/GestaltPray*2
”らしさ”を浮かび上がらせた絹夜にレガシィは背中を向けたまま優しく声をかけた。
「楽しい? 絹夜」
「……ああ、すごく楽しい」
目を閉じ、そしてもう一度開くと彼の双眼は北国の犬のように青白く輝いていた。
大げさにマシンガンをぶん回して担ぎなおすレガシィ。
その様子にアサドアスルは苦虫をかみ殺したように顔を歪め、”腐敗め”と唇を動かした。
「そうね、懐かしい。前にもこんな事があったね」
あの時の敵は彼の父親、ルーヴェス・ヴァレンタイン。
レガシィの影の中でニャルラトホテプが、私も知ってる! と浮かれる。
「さぁ、絹夜……私が満たし潤してあげる」
邪悪なレガシィの囁きに絹夜の動向が開き、まさしく獲物を狙う狼のそれになった。
「懐かしい、血の匂い。俺は……渇いている」
ぐっと自らの喉に手を当て渇きを再確認した彼にレガシィは微笑む。
次の瞬間には互いの姿が消えており、俊敏な眼球運動がようやく相手を捕えていた。
天井高く飛んだレガシィの真下、バラバを装備した絹夜が下から狙っている。
躊躇いも容赦もなく、一本の大柱のようなフォトンレーザーを放った絹夜。
髪を数本を焦がしながら間一髪で回避したレガシィが今度、カマソッソの大鎌を叩き落とす。
大理石の床に斬りこみが入り、天井からはぼろぼろと礫が落ちていた。
「ふっ、間抜け。もっと早く突いてくれないと天国にも地獄にも行けないわよ!」
「っるああぁぁぁぁあ!」
フォトンビームが左右に走る。
静かにその様を、忌々しく見ているアサドアスルの前にその砲撃は届かないが
閃光が走る度に彼女の表情は段々と曇っていった。
彼女の優しい夢で、きらめく日々で、彼の心はすっかり沈んで落ち二度と目覚めぬはずだった。
例え目覚めても彼女を思い出す事はなかったはずだった。
彼女の思い出。
アテムの血。
彼が必要としていたものは揃っていたはずだ。
そして彼女はあまりに変わり果てていた。
名前も、力も、運命の意味さえも。
「もらったぁぁああ!」
絹夜の咆哮と同時にレガシィの肩にぱっくりと裂け目が出来る。
バラバの装備を解除し瞬時に2046に切り替えた絹夜が音速の剣撃を喰らわせたのだ。
即座に影がそこを塞ぐも、溢れた血の、甘い匂いは薫り立つ。
「…………っ!」
ぽたり、絹夜の頬にひとつ落ちた血に彼ははっとして2046を垂らした。
妙な浮遊感を纏ったレガシィも彼の前に着地する。
周囲の沈黙を待っていたかのように絹夜は頬を拭いその手をじっと見ていた。
にやりと彼は笑い、その手を口元に持っていく。
だが、その彼の後ろでアサドアスルが左腕を威嚇する蛇のように高々持ち上げた。
「だめ!」
レガシィが焦燥を露わにして叫ぶ。
「遅いわ、ばぁかめ!!」
そのざまに余裕と愉悦を取り戻したアサドアスルの指先がすとんと落ちた。
同じ経路をたどるように絹夜の視線は2046に移る。
まず、青ざめた。恍惚に茜を刺していた彼の顔からさっと血の気が引き、次第に絹夜の息は乱れてとうとう絶叫になった。
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