NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
16 *形象/GestaltPray*1
夢を見た。
ベージュ色の神殿、黒衣の魔女。
――全てが私の敵となり、私はそれらを討ち滅ぼす力を手に入れる。
彼女は自分のものだ、誰にも渡さない。
――絹夜。我が愛しい人。私と、貴方の楽園はここじゃない。
楽園。
アサドアスルか、レオか、それは甘く優しく微笑んだ。
永遠の楽園。彼女と、自分の。
遠く、足音が聞こえる。
それは誰かがこの楽園を壊しに来る音だと、絹夜は感じていた。
* * *
「俺”達”の楽園を……壊さないでくれ」
すっかりアサドアスルの楽園とやらに浸けこまれて、今や滴りもするほどの時代の獅子の手先じゃないか。
命を賭した人を汚物でも見るような目で見据えてレガシィは銃弾をもって答えた。
軌道はするりと絹夜の横を抜けてアサドアスルの脳天に向かう。
しかしそれは彼女が持ち上げた左手の直前でぴたりと停止し、空気の波紋を生んで、それだけで終わりだった。
「彼の者の心は最早我がもの。お前がここで取り戻せるものなど、何も無い」
アサドアスルの言葉を聞いてレガシィは鼻で笑った。
何がおかしい。視線で訴えたアサドアスルにレガシィは今度、豪快に笑った。
「これだから昔寂れたグズな巫女は! お前、全然わかってない」
あまりに豹変していた。
人格は愚か、その力の質まで。
故にアサドアスルは危機感を覚えた。
力の主は、彼女を選び、そして加担しているのではないかと。
なるほどな。
こうして戦わせればどちらかがどちらかを乗っ取る事になる。
後は想像もしたくなかった。
「お前の絶望はどれだけ美味いか楽しみだ。
黒金絹夜。私の為にあの娘を切り刻んでおくれ。
そして絶望しておくれ。私に愛など存在しないと、教えておくれ」
少しふらついた足取りで絹夜はレガシィの前に立ち剣先を向ける。
レガシィも銃口を彼に向けた。
「バラバァ!!」
影を呼び出した絹夜は次の瞬間、レガシィの目の前まで迫っていた。
さすがだ、早い。
あらゆる遺跡で数々の魔獣と向かい合ってきた男だ。
スピードと力技に特化した彼の戦闘スタイルを知ったところで止めようがない。
本当に、本当に惚れ惚れするほど強い。
そしてそれに反比例するように精神的に脆かった彼を思い出し、また胸が痛む。
猫のような敏捷な動きで、同じような速度で、絹夜の攻撃をかわしレガシィは逃げるどころか寄り添うように彼に沿っていた。
手にした銃も放たず、ただ殺意のダンスに付き合うように。
「何故撃ってこない」
ぼそぼそと呟く絹夜にレガシィは黙って彼の目を覗き込む。
ゴールデンディザスターで付け入る隙はない。
同時に、オクルスムンディを使う気配も無い。
優しく奪い返せそうにもなかった。
「カマソッソ!」
翼のオーバーダズと呼びだすと同時に彼女の手には拳銃ではなくマシンガンが収まる。
そしてもう片方の腕でカマソッソにつかまり飛翔するとまずはバラバを狙う。
バラバも同じように飛んだレガシィを狙い両手の銃を高々を上げる。
だが結局互いに銃弾を放たず、レガシィは着地した。
互いに獲れないとわかっていたからだ。
すると、今までぼんやりとしていた絹夜に表情が灯る。
悲壮でも、落胆でもなかった。
「くっくっくっくっく……」
ふらりと額に手をやりながら彼は肩を揺らし、そして溜息のように清々しくつぶやく。
「なつ……かしい」
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