NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
14 *再再再来/Undead2
話はさかのぼる事数日前。
ロゼッタセキュイリティーコーポレーションでの事件は金と権力によってうやむやになっていた。
「これが我々の持っている情報全てだ」
エリオスが分厚い書類を渡すと、レガシィはサングラスを持ち上げて難しい顔で難しい書類に目を通した。
最上階のエリオスのプライベートルームで、散々フィギアやらが置いてありまさしくオタク野郎の部屋なのだが
そこ以外にレガシィをかくまう場所もなく渋々通した場所である。
呆れた目をしながら自分のフィギアに対面し、テーブルいっぱいに並べてレガシィはソファにつき、
何事も無かったように『プロジェクト・アテム』のデータをよこすように言った。
恥ずかしいことこの上なく幸せ。
にやけそうになるのを極力クレバーに装ってエリオスは全権を彼女に譲った。
当然プロジェクトは中止を命じられ、ついでに”真実の魔女”との契約も反故。
城が陥落した如く、とうとうロゼッタ社も彼女に屈服したのである。
「レガシィ、何かわかった?」
「うるせぇ、黙ってろ」
眼球を左右に走らせる彼女は表情一つ崩さずに最後まで目を通すと大きな溜息を一つついてにやりと笑った。
「成程……ウェルキン博士の仮説は的を獲ていたってわけね。
とりあえずエリオス、何か水もってきて。長い話になる」
「ああ、はい」
IT企業着目の若社長を顎で使って、ミネラルウォーターのペットボトルをもってこさせると、レガシィは半分ほど一気に飲み干した。
正面、彼女のフィギアを挟んで座ったエリオスは夢にまで見た光景に頬が緩む。
「おい」
「べ、別にいいじゃないか! 真剣に聞いてる!
これでも君よりは頭の周りはいいはずだ」
ふん、と顔を赤くしながら反り返るエリオス。
確かに頭の周りはいいはずなのでレガシィは書類のページを数枚めくって前提条件を全て話した。
自分が吾妻クレアの娘である事、アサドアスルの事、九門高校であった事。
全てかいつまんで言ったのだがエリオスは目を丸くして、それでもすぐに納得できたようだった。
「吾妻クレアは……私の母は、遺伝子という形状を利用して、邪神の器を作り出せる事を知っていた。
そして、この資料を見る限り、吾妻クレアはアサドアスルがどれだけ凶悪だったかもわかっていた。
その上で、それでも彼女は兵器を生みだそうとするには、それ相応の自信があった、ということね。
だけど、私の中には確実に邪神の力が浸食している……これは、失敗か否か」
試すような視線に、エリオスは目を吊り上げて答えた。
「否。彼女の計画そのものは未完だった」
「どうして私の遺伝子に馬鹿長いテロメラーゼが用意されているのか。
これは私をいつまでも思春期の少女の肉体を保たせる為。子供を幸せにしようという母親のやる事じゃないわ。
間違いなく、吾妻クレアは私を実験の完成品……兵器として生みだした。ま、私はそういうの結構面白いと思うけどね。
ただ一つ、誤算があった。吾妻クレアはギーメルギメルの権力争いに巻き込まれて死亡。
……今になってそれが一体誰の意志なのかは分からないけれど、結果的に邪神の都合がいいように話が動いた」
「吾妻クレアがやりそこなった事、それが真の意味での『プロジェクト・アテム』ということか」
「ええ、兵器を作りたくてお腹を痛めてまで生みだした、そんなトチ狂った女がやりたがる事は一つ」
そう言ってレガシィはチョーカーに手を当てた。
エリオスが頷き、結論を言う。
「首輪をつけて邪神の力を飼いならす。その首輪を作り損ねた……。
そのシステムの制作をするために我が社にコンタクトを取ったというわけだな」
「そう。この現代でヒエログリフなんていう埃かぶった呪文を扱えるのは、世界中探しても貴方だけ。
貴方はセキュリティ会社の社長として選ばれたのではない。魔術師として、選定された」
自分のフィギアの中にレガシィは『時代の獅子』を置き、台座を見せる。
そこにはごちゃごちゃとアラビア文字と、古代文字ヒエログリフが並んでいた。
「何年前の代物かわからないけれど、こいつで確かに力を押さえられるみたい。
なんつうか、私の想像でしかないんだけど、これはアサドアスルの恨みとかを慰めるためにアテムの生き残りが作ったものだと思うの。
いずれ、あいつが外に出てきた時の為のね。でもそれでは意味がないの。私がアサドアスルと戦わなくてはならない」
「なるほど」
当然彼女は制御される事を望んでいない。
それすら邪神の意志なのか、彼女の決意なのか定かではないが、エリオスは頷き『時代の獅子』を手に取る。
「つまり、ここに刻まれている魔術を回避するシステムを用意すればいいわけだな」
「ええ」
「…………」
珍しく鋭い視線で睨みつけるエリオス。
そう、またしても邪神の都合のいいように話が動く。
彼女が『時代の獅子』で封じられない存在になってしまっては一体今度誰が止めるというのだろう。
最早止める術のない邪神が生まれるのではないか。
そんな恐怖と期待がじわりと滲んだ。
しかし彼女が一体何者であるのかを思い出し、エリオスは疑念もリスクの飲みこんだ。
そう、どの道ここで従わなければ、彼女は彼女の手と意思で世界に滅びと八つ当たりを叩きつけるだろう。
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