NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
12 *死点/Deadpoint*2
その様を見ていた結界を張っていたヘリコプターの部隊にも恐慌が走る。
彼らの目の前でレガシィは変容したのだ。
「うわっ、ヤバすぎるでしょ!」
ヘリのハンドルを握っていたビリーは思わず島から距離をとった。
「ビリー、持ち場から外れないで!」
「無茶いわんでください!! あいつ、もう正ッ真正銘の化け物ですよ!」
いつも言葉を濁すビリーが断言し、ジェーンも乙姫に反対意見なのか口にはしないが視線で訴えてくる。
「やっぱりあの娘、目覚めさせない方がよかったんだ……!」
「ビリー! うろたえない! うるさい!」
「はい……すみません……」
乙姫に一喝されてビリーは運転に集中することにしたのか押し黙り元のポイントにヘリを安定させた。
嫌でも焔の島にどこからともなく湧いて出る黒い槍がどさどさと突き刺さる様がうかがえた。
趣味の悪いバースデーケーキのように槍が刺さっては白い砲撃がなぎ倒す。
最早、あそこに残っているのは邪神と悪神。
ごくり、と生唾を飲み込んで乙姫は無線機で雛彦に連絡を取った。
すぐに出た雛彦て堅く重い声で聞いた。
『一体何が起きた』
「……雛彦様……最悪の展開といっても過言ではないかと……」
『閉じ込めたのだろう。どっちが死んでも作戦通りのはずだが』
「いえ……私達は一つ、”誤算”をしていました」
乙姫の言葉にジェーンとビリーも青ざめる。
気分が悪くなったのか、乙姫は口元に手を当てながら言った。
「間もなく……共食いを始めます。どちらも死にません。どちらが器になるか、それだけの話です。
悪意は、死にません……」
『……っ』
乙姫の宣言通り、黒い槍が白い砲撃の川をさかのぼり始めた。
ひぃ、とジェーンが悲鳴を上げる。
焔が上がっているにも拘わらず、島は黒い霧に包まれ始めたのだ。
「聖でも魔でもない、邪悪が、邪悪が、邪悪が、邪悪が!!」
百戦錬磨の戦闘神父とシスターであるビリーとジェーンが震えあがる。
いや、彼らだからこそ震えあがった。
それがおぞましい姿をした魔であればうち果たす自信はあった。
だが、目の前で充満しているのは姿かたちの無い”人間の欲望”だ。
飲まれる。
乙姫が呟いた言葉を聞いて雛彦は苛立ったように息を吐きながら命じた。
『レガシィ……!! くそ! 底なし暴食の化け物め! 確率を縫って生き残りやがって!
撤退しろ! 極力生きて戻れ! 奴のエサになんかなるな!』
そして雛彦との連絡は終わり、乙姫は他のヘリと船に撤退命令を告げる。
結界隊が離れていくのを察したか、黒い槍は霧に包まれた城から空と海を狙い始めた。
「恐慌ですわ、強行ですわ、凶荒ですわ!!」
「隊長、僕らも早く逃げましょう!」
急かす部下に首を振り、乙姫は彼らが今、最も聞きたくない命令を下した。
「あの島に着陸させてください」
正気の沙汰とは思えない。
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