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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
5 *病神/Camazotz*4
 真夜中に戻ってきたレガシィを迎えたラズロ爺さんはまるで幽霊でも見ているような顔つきだった。
 そして第一声がこれだった。

「うわ、何だその匂い!」

「あっはっはっは。次はお風呂貸してくんないかな」

 から笑いの末頭をぼりぼりやっているレガシィだがそこからも得体のしれない土クズのようなものが落ちてくる。

「カマソッソはどうした」

「あー……倒した。うーん、確かに倒した」

「…………」

「んで復活させた」

「お前は何をしに行ったんだ」

 的確すぎるツッコミにレガシィは肩を落とし、同じようにラズロ爺さんも禿げた頭に手をやった。
 だが、レガシィはポーチから見事な赤水晶を取り出し彼に差し出す。
 指の間からそれを見たラズロ爺さんは硬直して震える声で問うた。

「……おまえさん、それをどうしたんだ。
 それは、カマソッソのいる赤水晶の間で……?」

「『時代の獅子』と交換しよう」

「……おお、カルロス」

 十字を切ってラズロ爺さんは赤水晶を受け取る。
 そしてそれこそ我が子の様に胸に抱いた。
 完全に汚臭の根源であるレガシィは早速バスルームに行ってシャワーをひねった。
 簡素でバスタブだけが置いてあり、天井には蜘蛛の巣が張られている決して綺麗なところではないが、
 茶色の水が出てくる宿屋なんてレガシィは何度も経験していた。
 幸い透明な水で、熱いお湯は出なかったが十分だ。

「うわ、なにこれぇ」

 マントはどろどろしたものがついているし、ブーツには虫の死体が絡まっている。
 銃とポーチを外して服を着たまま頭から水をかぶり、マントを外したところだった。
 べちゃ。
 足元に何か黒いものが落ちた。

「あ?」

 拾い上げると、それは吸血コウモリの一匹だった。

「…………」

 沈黙をシャワーの水音が絶え間なく埋めていた。
 とりあえずはそれをポーチの横に置いて服を洗っては外しで脱衣する中、コウモリはパタパタと宙を舞い始めた。
 シャンプーなんだかボディソープなんだかわからないもので全身がやっと綺麗になり生乾きのまま身につける。
 酷いにおいは微妙に残っていたがそんな細かなところを気にしている場合ではなかった。
 風呂から出てくるなりレガシィはコウモリをつまみ上げて机に向かっているラズロ爺さんの目の前にぶら下げた。
 約束通り『時代の獅子』をそこに置いている彼もなんだかんだ言って交渉が成立している事を認めてくれているらしい。

「これがカマソッソの正体よ」

 べちゃ。
 またしても不細工な状態で『時代の獅子』の横に落ちたコウモリにラズロ爺さんが憐れみの目を向け、そしてその表情のままレガシィを見た。

「どういう仕組みだ」

 レガシィはオーバーダズの事、そしてカマソッソの事を簡潔に話した。
 憐れみの表情が消えないラズロ爺さんにセクメトを呼び出し彼には本体が見えないので椅子の背もたれのパイプを折り曲げて見せると、
 唖然として彼は信じたようだったが、レガシィ自身にはさらなる疑念が沸いたようだった。
 そして復活させた理由を聞かれてレガシィは悪びれもせずに言ってのけた。

「カマソッソいなくなったら、あそこに悪い奴がだーって入って行って水晶を根こそぎ奪ったらコウモリ追い出すんじゃないの?
 なんかさ、それを想像すると、カルロスさんの墓が暴かれてるみたいで嫌な気分になんのよね」

 確かにそうだった。
 カマソッソは憎い。
 だが、あの場所がカルロスにとっての神聖な場所で、ラズロ爺さんもまた、誰の手に渡ってしまう事も望んでいないのは確かだった。
 忌々しげにラズロ爺さんは正面に置いてあった写真立てを手にした。
 そこには三十歳は若い彼と彼に少し似た青年、そして快活そうな女性が映っていた。

「諦められない気持ち、わかるよ」

 そう言ってレガシィはラズロ爺さんの後頭部に豊かな胸を押しつけて後ろから抱き締めた。

「おじいちゃん、期待してるんだね。二人が帰ってくるの。
 偉いね、心におっきい穴開けながらずっとここで待ってたんだ」

「そんなんじゃない」

「一個だけ言っておくけど、私がカマソッソを、コウモリ達を根絶やしにしても、誰も戻ってこない。
 貴方はここで待つ必要が無くなるし、戻ってこない二人は死んだって、認めなきゃいけない。
 だけどさ、だからといってさ、すっぱり忘れるってのも悲しすぎるじゃん。
 ちょっとくらいトラウマ抱えて甘く疼いちゃうのも、”人間”なんじゃないの」

「そんなこと、もう何年も前にわかってる。
 ……ただ、誰からも言われなかっただけだ」

「……そう」

 耳元でそれを言うと、レガシィの温かい体温はすっかり消えて無くなった。
 しんとする部屋の中に振り返りラズロ爺さんは黒い影を探したが、一瞬にしてレガシィ、そして『時代の獅子』は影も形もなくなっていた。
 死神だったんじゃないか。
 ラズロ爺さんはそう思った。
 もし、彼女が死神だとするのなら、カルロスもきっと窮屈な思いをしているわけではなさそうだ。

             *                      *                     *


 荒野は夜になると急に冷え込んだ。
 まずは大きな街に戻って、信頼できるあの男に『時代の獅子』を送り、次の『時代の獅子』のありかを聞かなければ。
 これでもう半数を超えた5つ目だ。
 そしてあれからもう半年も過ぎている。

「…………」

 ラズロ爺さんにはああいったが、自分も諦めきれないうちの一人だった。
 足が止まりそうになるところ、パタパタという羽音が聞こえ、視界に鉛色の翼が入った。
 首元をちょろちょろ飛び回るコウモリは退化してもう見えないだろう目を向けてくる。

「何? あんた、一緒に来たいの?」

 ちぃちぃと返事があって、レガシィはため息をつきマントを広げてポーチの隅を提供した。

「宅配便に次の情報、それから獣医捜しか」

 こうしてレガシィはこの地を去ったのだが、
 この三年後、巨大生物騒動でこの静かな村でひと騒動あるのは言うまでもない。













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あきゅろす。
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