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NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
4 *悪意/Malicious*2
 近所の商店街のはずれに新しく出来た小さなブティックに連れてこられたレオは横目でジョーを見た。
 いつこういう店をチェックしているんだ。
 そんな視線も受け付けず、ジョーは鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌だ。
 中では可愛らしい服装の店員が一人で切り盛りしているようだ。

「いらっさいませ〜」

 若干かつぜつが悪い。

「んで、ジョー。お母さんに何プレゼントすんのよ」

「そこまで考えてねー」

「え!?」

「だって、中入るの俺も初めてだし……」

「…………あんた、要領いいけど結構行き当たりばったりだよね」

「いいんだよ、気合入れすぎるとドジ踏む事もあるだろ」

 そう言って店の中を見て回る。
 可愛らしい柄物のスカートなんかが目についたがレオは手に取ったりはしなかった。
 制服が一張羅になりつつあるレオはこういった女の子らしい服が苦手だ。
 フェミニンな印象のこの店の服がに会うのは可愛げのある女性だ、そんな風にレオは興味の蓋を閉めた。
 第一、可愛いという単語がそもそも自分と適合しない気さえしていた。

「あ、レオレオ、これよくない?」

 ジョーが指しているのは穏やかなピンク色のパジャマセットだ。

「あ、お母さん入院してるんだよね」

「そうそう」

 何色か色やデザインが違うものがあるようだが、レオはジョーの勧めるピンク色ではなく、その奥の黄、青、茶色のボーダー柄を手にした。
 彼女の趣味らしいパワフルな色合いだ。

「こっちの方がいいんじゃない?」

「ちょっと、若すぎない?」

「見てみないとわかんないじゃん。
 すいませーん、これ、だして見ていいですかー?」

 こういうところ、ジョーは躊躇ってしまうのだが、無遠慮のレオがいると事がサクサク進む。
 いいれすよー、という気の抜けた返事がすぐに返ってきた。
 全部を広げてみると、上はフードつき、下はパンツスタイルでそのままふらっとどこにでもいけてしまいそうだ。
 ジョーの母親がどんな人か知らないが、レオはピンク色のものと見比べてやはりこれを勧める。

「やっぱ、こっちがいいじゃん」

「まぁ、確かにそうだなぁ。似たようなの持ってたような気がするし……」

 やや強引にレオが押し切ってジョーの母親用のプレゼントはそれに決定した。
 初めてジョーが会計をする姿をレオは見て違和感すら覚える。
 そうして簡単な用事が終わった、とレオが夕食の事を考えていると店を出るとジョーが次は、と言い出した。

「次?」

「あ、ホラ、うち妹4人いんのよ」

「4人!?」

 聞けば、兄、妹、妹、妹、妹の5人兄弟らしい。
 すぐ下の妹から年子なので妹達は何かとセットになってしまう。
 いつも家事をしているのが妹である意味、女の園なのだが兄としては肩身が狭いようだ。

「よし、まず春野からだ!」

 長女の春野は快く家事をやる良妻賢母タイプだという。
 中学二年生にも拘わらず、欲しいものは? というさりげない質問に”うろこ取り器”と答えたらしい。
 どういったやつかわからない、というところで今まで足踏みをしていたジョー。
 経緯はさておき、レオが魚屋に突撃して直接聞いてきたところによると、先端に円形の器具がついた金物との話。
 ついでに魚屋のおっさんから売ってる金物やの場所まで聞いてその得体の知れない器具を入手できた。

「レオ、ありがとう! 俺一人だったらこいつにたどり着けなかった!」

「いや……聞きゃいいじゃん……」

 そこのところ、性格の違いである。
 使えるものは目についた瞬間に使う行動派のレオ。
 吟味してから手を出す慎重派のジョー。
 ハタからみればジョーに世話を焼かれているレオであるが、ジョーとしてはレオのこういったところを頼りにしている。
 目標まですかっと一直線、なんとも男らしい性格だった。
 本人が許すならアニキと呼ぶところだ。
 残りは比較的分かりやすいものだった。
 次女の夏野は活発な娘らしく、陸上用の運動靴を。
 三女の秋野は秀才な読書家なので、高級和紙製で上品な押し花のしおりセット。
 四女の冬野はレトロ音楽好きということで、アンティークな形のヘッドフォン。
 それぞれを買い集めた頃にはもう暗くなっていた。
 薄ら星がいくつか浮いている。
 商店街の人影もまばらになりはじめていた。

「ははは、さすがに時間食うわな……」

 そこで解散、そんな風になろうとした時だった。
 荷物を抱えるジョーの携帯電話が急に”暴れん坊将軍のテーマ”を歌い始めた。

「…………それ、どうなの」

 レオの批判を受け流し、ジョーは彼女に荷物まで押しつけると、着信相手を確かめて顔色を変えた。

「きぬやんだ……」

 画面を覗き込むと、”きぬやん(はぁと)”と登録されている。
 前回の事件から変な関係になったんじゃないか、そんなレオの疑いの眼差しそっちのけでジョーは深刻な声色で電話に出た。

「もしもし?」

『そう遠くに行ってないだろ。高校に戻って来い』

「い、今から!?」

『レオもいたら連れて来い、じゃあな』

「ちょ、センセ! あっ」

 プーップーッ。
 しばらく携帯を見ていたのだが、ジョーは生温かい笑顔でレオを見た。

「ガッコ、もどってこいってさ」

「…………」

 ジョーがその着信メロディを”暴れん坊将軍”にするのも無理はない。

                    *              *             *

 将軍様のお呼び出しから30分もしないうちに大荷物を抱えた二人は九門高校にとんぼ返りしていた。
 ロッカーに荷物を詰め込むと、一階の廊下に出る。
 すると、消えているはずの電気がついており、職員室と西側のトイレあたりが明るくなっていた。

「なんか、あったのかな?」

 顔をのぞかせる二人の背後からぬっと絹夜が登場する。
 不穏な空気が流れている場所を避けるようにして、三人は地理教材室に入った。

「センセ、何があったの?」

 後ろ手で扉を閉めつつ、ジョーは声をひそめた。
 椅子に腰かけ眼の前のカーテンを締め切ると、絹夜は静かに答えた。

「自殺未遂だ」

「え、自殺!?」

「西側の女子トイレで手首切ってたらしい。
 偶然、菅原がそこにいて止めたって話だ」

「おお、グッジョブ、銀子ちゃん!」

 ほっと胸をなで下ろすジョーの隣でレオは腕組のまま鋭い表情を崩さない。

「でも、私とジョーを呼んだってことは……」

「ああ、まぁ急くな。一応、自殺を図った生徒は病院に運ばれて今命に別条がないって事も確認されてる。
 ただ、意識が戻らないそうだ。意識だけ裏界に落ちた可能性もある」

 それで、関わっている全員で裏界を捜索、という話だ。
 言わずともがなそこまで察し、レオとジョーは頷いた。

「レオには別に話がある。ジョー先に行っててくれ。教師もうろついてるから見つかるなよ」

「あいよ、ごゆっくり」

 ごゆっくりしている場合ではないのだが、ジョーは冗談めかして忍者のように影を渡って階段を駆け上っていった。
 残ったレオはきょとんと首をかしげている。

「お前のその目、いつから視線を盗めるようになった?」

「……何それ、もしかして私の事疑ってんの?」

「それもあるし、単純な興味だ」

 その言葉は嘘偽りない。
 ただ、どこか彼女は敵でいてほしくないという淡い願望があった。
 むっとしながらもレオは腕を組み答える。

「多分、生まれた時からだと思うよ。
 機嫌悪い時にじっと睨むと、両親は嫌な顔した。
 母親なんてヒステリックになって悲鳴を上げたりもしたよ」

 親という言葉に悲しげなニュアンスが籠っていた。
 そういえば彼女の両親は事故で亡くなっているという。
 しかし先天的にそんな能力が備わっているとなるともっと厄介だ。

「お前、何か特別な血族なんじゃないか」

「さぁね。この通り純粋な日本人じゃないって事だけ知ってる」

 ミルクティー色の肌に鮮やかな黄緑の目。
 間違いなく美しいエキゾチックな少女なのだが、確かにこの島国では少し浮いてしまう。
 複雑な混血なのだろう。
 そしてなんて複雑な力のあり方なのだろう。
 オクルスムンディで彼女を見る。
 やはりどっちつかずの、聖魔混在以前に透明な力にあふれている。
 両方でる自分と、どちらでもない彼女。
 どうしても絹夜は自分と彼女を比べてその差が知りたかった。



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あきゅろす。
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