NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
3 *歪曲/Cry*1
翌日、週に一度の休みの日だったのでジョーは隣町の病院まで足を運んだ。
仕事中だと怒られはするが顔を見ていつもの調子で冷たい言葉を浴びせかけるならそれでいい。
どこか放っておくと危険な雰囲気が今でもあり、また黙ってどこかに消えてしまうんじゃないかとジョーは時折不安に思っていた。
メールのやり取りも彼女の方から突然止まり、そして翌日の夜に仕事が終わったという話でまた返信が来る。
確かに彼女は表向きドライな性格だが、着信が連続してあったり、かけなおせば特に用はないという彼女の態度が少しおかしいと感じていた。
病院に行くと、すでに看護婦の何人かがジョーの顔を覚えており入口前で声をかけてきたがさえない表情だった。
「今日も字利家さんお目当て?」
「はい。います?」
「それが……」
途端に看護婦の表情が曇る。
「顔色が悪くてついさっき帰ったところなのよ」
「具合、悪いんですか!?」
「今朝はそうは見えなかったんだけど、廊下で倒れてたみたいで。
ただの貧血って言うけど……ここ何日か続いてるのよね。あの人、頑張りすぎるでしょ。
ちょっと前まではすぐ休みたがって別の仕事してたみたいだったけど、急に真面目に働く気になったみたいで。
夜勤明けに日当して、そのまま夜勤するような生活、絶対に無理なのに……」
「それって全然寝てないって事じゃないですか!!」
「そう、でも……どうしてもやるっていうから……」
「あのバカ! ありがとうございます!」
恐らく、それまでは彼女の特殊な能力を遣って疲労も睡魔もはねのけていたのだろう。
だが、もう半年前にその力は失われている。
力を失って、それからそんな無茶を半年も続けていたのだろうか。
あの過ぎた荷と同じ出力で月給高が知れた仕事に打ち込んでいたのだろうか。
どこまでいってもプライドの高い使命バカだ。
それじゃあ職場に知り合いを寄せ付けたくないはずだ。
「あ、でも渋沢先生が車で送っていったから、大丈夫よ」
渋沢? 医者か?
誰だ。
生返事をしながらジョーはやはり彼女の自宅がある住宅街に足を向けた。
いつも見ている風景、渋沢という名前が頭から離れない。
ひとみに手ぇ出してみろ、お前の病院に送り返してやる。
拳を握りながらインターホンを鳴らす。
しばらくしても誰も出ないので合鍵を遣って入ろうとしたが、そのタイミングで扉が開いた。
「はい?」
きょとんとした顔で見知らぬ男が顔を出し、ジョーは真っ白な思考の中でブツン、と威勢のいい音がしたのを聞いた。
気がつくとその男の胸倉を掴んで廊下に引きずり出し手すりに叩きつける。
三十そこそこのガタイのいい男だが、てんで鈍間で簡単に骨でもなんでもバラバラに出来そうな相手だった。
「てめぇ、勝手に上がりこんでんじゃねえ!」
「ちょっと! 何!? 何なんだ君は!!」
「お前が渋沢って野郎か……!」
「待て! そうだが待て! そうだが話し合おう!」
「冗談ぬかすな! この――」
どさ、と不穏な音がして視線を部屋の中に向けると孔雀色の髪が廊下に覆いかぶさっていた。
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