NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
2 *超悪意/SuperMalicious*1
『レガシィの新しい画像、うpきたな』
『ピンクモモンガも本物っていってた』
『ヤッパ存在すんのかなぁ』
『自作自演乙』
『また出たなネガ野郎。ネガばっかいいやがってパンダかよお前は』
『ネガにネガるやつもネガ』
『パンダwwwwww』
『↑x4お前、どこいってもネガネガしてるらしいな。
そんなにかまってほしかったら別スレいけよ。アニメスレでもなんでもあんだろ。
なんでレガシィスレばっか荒らすんだか』
『犯罪者を崇拝する理由がわからん。
お前らが崇拝している女に財産を盗まれて泣いている人間がいないわけじゃない。
軽々しく盛り上がってるが、お前ら、ハイパーレガシィと同罪なんだよ。
強盗に入られても泣きごと言うなよ』
『本当に強盗なのかは誰も知らないw』
『被害妄想wwww』
『レガシィは怪盗』
『レガシィは義賊』
『レガシィは俺』
『レガシィは女王様』
『We are guardians of law and justice.
prohibit false god worship.』
それ以降、書き込み不能になり、ここのスレッドが死んだ。
* * *
「エリオス。貴方は優秀よ」
母はいつだってそう言っていた。
頭に手をあてて、そして微笑んだ。
楽しい勉強をして褒められる、本当に幸せな時代だった。
母は自分のやることなす事ほめていた。
自慢の息子だと笑っていた。
「本当に、優秀よ」
母はいつだってそう言っていた。
死の間際でも。
血走った眼で言った母の言葉、その時ばかりは呪文のように思えた。
優秀でない自分は存在してはならない。
だが、優秀ってなんだ。
今では何をやっても、自分が満足できるシステムを開発しても、社会貢献に偽善ぶっても、着飾って雑誌なんかに載っても
褒める人間はおらず、むしろ妬みの言葉を叩きつけられる。
「一体どうしろって言うんだ……!」
ピーピーピー。
連続した電子音に気がついてエリオスは起き上がった。
休憩すると言ったまま仮眠室で眠っていたのだ。
仮眠室と言ってもハイグレードなホテルの一室程の設備があり、また誰もが侵入できるわけではない。
プライベートを守るには十分な場所だった。
タイマーが鳴っていた時計を止め、顔を粗い歯を磨く、寝癖を直して部屋に届けられていたスーツを着る。
そこまでは頭場ぼんやりとしていても体が自動で動いた。
今日の予定は何だっけ。
考えなくとも部屋を出れば待機している秘書が教えてくれるのだが、エリオスは自ら思い出してようやく目を覚ました。
ハイパーレガシィ。
夢か幻か、彼女に出会ったのだ。
いいや、あれは現実だった。
『時代の獅子』を餌に彼女をおびき寄せる事に成功したのだ。
この上海支社にやってくる。
「……ん?」
やってくるはいいが、どこからだ?
上海支部の警備はどうなっているのか。
そもそも『時代の獅子』はどこに保管されているのか。
……気になる。
夕刻6時。
この部屋からは外を伺う事は出来ないがまだ日天はオレンジ色の光を灯しているだろう。
秘書に『時代の獅子』を持ってくるように言いつけ、自分は支部の警備をパソコンから調べた。
最高とは言えないがなかなか良好である。
地上はともかく、屋上のヘリポートもローフがかかっており許可が無い限り着陸は出来ない。
50階建のビルのどの階にもそれなりのレベルの警備員が一人配属され、異変があれば防火壁が下りてくる仕組みだ。
また、セキュリティプログラムの権限は何かあった際にエリオスのパソコンが最優先されるように出来ており、
まさかあり得ないだろうがミサイルの迎撃装備も備えている。
それこそICBMが射し向けられてもこのビルは守られる事になる。
「どこからでもかかってこい、レガシィ!!」
* * *
一方その頃レガシィはというと、ビルの壁面に這うコンテナの上で窓ガラスを磨いていた。
ぶあついぐるぐる眼鏡、オーバーオールに髪は帽子の中に収まっている。
ハイパーレガシィは当然、女性にも見えなかった。
窓ガラスの奥には慌ただしく行き来している人、パソコンに向かっている人となかなかクールに仕事をこなしている社員達ばかりだ。
そして気になる防犯カメラの位置も奇抜で、しかも死角が無い。
警備員もどのフロアにもいるようで、もちろんの事、見知らぬ人間、見知った人間の両方に鋭い目を光らせている。
「ほら! 手が止まっている!!」
バスン、と水はけで尻を叩かれレガシィはしぶしぶ手を動かした。
清掃にもぐりこんだはいいが、当然新人を内側に入れるわけもなく、言い渡されたのが窓ふきだった。
それもこのすぐにケツを叩く先輩と一緒に。
セクハラもいいところだ。
きゅっきゅきゅっきゅきゅっきゅきゅっきゅ。
上から10階分の窓を磨いたところでゲシュタルト崩壊を起こしてきた。
窓ふきって何だっけ。
っていうか何しに来たんだっけ。
体力には自信のあるレガシィだったが、こうも同じ作業をしていると思考がぼんやりとしてきた。
半分の25階が終わったところで先輩がようやく10分休憩を入れると言う。
タバコをふかす彼の反対側でレガシィは日干しされる布団のようにコンテナの手すりに上半身を預けた。
「社長のバカ。アポぐらい入れておいてくれてもいいじゃん」
当然それを期待して正面から入ったりもしたのだが追い返された。
あわててこの辺りをうろうろしていたビル清掃の新人をとっ捕まえて日当分の金を払って帰ってもらい、自分がそこにいるわけだ。
どこの世界に泥棒にアポをとるセキュリティー会社の親玉がいるのかと言われると返しようもないのだが、
レガシィとしては上海支部の情報は一切ないし、そのうえ一目見ただけで強行突破は骨が折れる事がよくわかった。
反射する夕日が眩しい。
ここを強行突破するにあたって、闇雲に入って闇雲に暴れればそれこそ袋のねずみだ。
せめて『時代の獅子』の在りかさえ事前にわかっていれば。
そう思って溜息をついたその時だった。
壁にむき出しになった非常用のエレベータが動いていた。
ふと目をやるとエリオス社長おつきの秘書がアタッシュケースを両手に抱えていた。
『時代の獅子』だと直感した。
強行突破開始だ!
「ごめんね、先輩! これ、しっかりつかんでて!」
「あ?」
そういうとレガシィは先輩に一本、自分で一本ロープを掴んだ状態にすると、ナイフでコンテナを支えていたロープを切る。
コンテナが下がっていき、滑車の原理でロープに捕まったレガシィの体はものすごい速さで上がっていく。
オオオオオンッ!
ロープが悲鳴を上げ、レガシィの体が屋上に放り投げられるのと同時に、
ガシャン、と地上にコンテナが叩きつけられた音がし、先輩は地上25階で宙ぶらりんとなる。
見事、屋上に着地したレガシィだったが、そこにはピラミッド状のガラスが設置されておりここを開いてもらわない限り屋内に入る通路口にたどり着けない。
だが、排気ダクトまでを流石に密封するわけにもいかない事をレガシィは予想していた。
つなぎを脱ぎ、マントの下にあるポシェットから小型のマウスピースを出して口に装着する。
おおよそ12時間、清浄な空気を保証してくれるもので、本来水中で使うものだ。
スポンサーがあれこれと売りつけてくるアイテムが多い中、こればかりは彼女が無茶を言って作らせた超小型超持続型の酸素ボンベである。
さらにゴーグルを装着して排気ダクトの中から先へ進むと大きな広間に出た。
コンクリートに囲まれただけの大したことない空間だが、目の前には挑戦的にも直径6メートルはあろうかと言う巨大ファンが元気よく回っている。
これでここを封じたつもりなのだろうか。
「甘過ぎて吐血しそうだわ」
そう言いながらレガシィはナイフを取り出し左手に握る。
最早彼女の能力はただ単に電気や雷撃を操るという領域を超え、微細な電波を引き起こし音や分子を操作するにまで至っている。
彼女も一年前まではどれだけ大きな雷が落ちるかに興味があった質だったのだが、とある人物の助言を元に小さく器用に操作する術を磨いた結果、
分子と分子間の微細な力を集める事により強大なエネルギーを生みだすという異常な成長を遂げた。
その能力により超振動を起こしたナイフを高速回転するファンにあてるとバターのように羽が折れて吹き飛んでいく。
からんからん、と鉄が地面に叩きつけられる音は鳴るものの、ファンは正常に回り続けているので警報には引っ掛かっていないようだ。
ちなみに、彼女の今後の目標は電子による原子間の融合を己の意志で遂げられるようになる事、つまり原子を操る事である。
そうなってしまえば最早、人間だ、聖者だ、魔女だの領域を完全に逸脱する事になるだろう。
にやり、と邪悪な笑みを浮かべ、こうしてレガシィは当然の様にビル内に侵入した。
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