NOVEL 天使の顎 season2’ OVERDOSEEXOCIA
1 *再再来/ReReturn*1
『今週はとうとうやっちまったな、レガシィ』
『漏れも動画見た。本物ぽいですけど』
『妄想が具現化したかとおもたw』
『俺は信者じゃないが、レガシィの動画うpあり>イタリア警察』
『自作自演』
『海外のニュースでも取り上げられた画像らしい。つか、呪いのビデオみたいな画質で怖い』
『画質ワラwwww 砂嵐も同然wwwwwww』
暗い部屋の中で一人、パソコンの画面を見ながら顔も知らない相手とチャットをするのが彼の日課だった。
『マント+水着=変態』
『露出盗賊ハァハァ』
『オレんちにもレガシィこないかな。アパートだけど』
『昨日、ウチにきました』
『それうちのおふくろw』
『↑ワラ』
最近はハイパーレガシィについてを語るスレッドが盛り上がっている。
その女盗賊はマントの下に抜群のプロポーションを持ち、しかもとびきり可愛らしい少女だという。
そしてつい先日、彼女の姿を捕えた防犯カメラの映像がネット上を駆け巡った。
荒くて見れたものではない、しかも3秒程度の映像だったが噂が真実だと匂わせる映像だった。
顔はサングラスで隠されていたが、黒いマントの下に水着とショートパンツを着たような露出の激しい姿をしていた。
『ちょw』
『犯罪者擁護乙』
『釣られネガ師乙www』
『どうも。ピンクモモンガです。こんばんわ』
『桃ネズミキタ―――――――(・∀・)――――――ッ!!!』
『待っていた、同士』
『将軍おはよー』
彼にとってハンドルネーム『ピンクモモンガ』はライバルだった。
いいや、世界中のレガシィ信者にとってのライバルだ。
なんせ、異様に彼女に詳しい。
警察がほぼ隠しているレガシィの容貌も『ピンクモモンガ』は言い当てた。
長身、黒髪、中東系の巨乳。
一時期『ピンクモモンガ』はレガシィの関係者だ、本人だと言われたが、今ではそれも鎮火し、英雄扱いである。
彼も様々なレガシィのスレッドを見たが、やはり『ピンクモモンガ』のいるこのスレッドが一番レガシィに近い気がして入り浸っていた。
『↑x3黙れ小僧。やぁ、廃人ども。早速例の動画でwktkしてるみたいだな』
『イタリア警視庁グッジョブ(゜ω゜)b』
『将軍様、あれは本物なんですか?』
『俺の妄想が確かなら』
『認証キタ―――――――(・∀・)――――――ッ!!』
『ももんが妄想=真実』
『誰か解析してタモレ』
『オッパイオッパイ (( ・∀・)o彡゜』
だが今日は流れるログを見るだけにする。
今日も桃モモンガ中心で話が流れていく。
いつもは桃モモンガやネットの世界の住人と下卑た夢だか妄想だかを語りながら気を失うようにパソコンの前で寝るのが日常だったが、
今日は特別違っていた。
最早彼らと自分は違う立場になったのだ。
自分はとうとう桃モモンガを超えたのだ。
レガシィを手に入れられる権利を手に入れたのだ。
* * *
よくも、どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、なんて表現したもんだ。
ガガガガガガガガ、ぎぃーっ。
船が波に上下されるたびに船体が今すぐにでも海上分解しそうな悲鳴を上げる。
上がっても下がっても絶えることなく、ガミガミガミガミとヒステリックな音を上げていた。
カニ漁船の屋根の上からぎらついた夜景を見る。
潮臭い風がレガシィの長い黒髪を乱暴に撫でまわしていた。
小さな銀色の端末を片手に、目の前の輝く都市に視線を走らせる。
輝きの都市――上海。
ごちゃごちゃしていて、きらきらしていて、それからぐるぐるしていた。
ふと、船の中から足音を切り替える。
年老いたカニ漁師が自動運転から手動運転へと切り替えに起きたのだろう。
上海上陸まであと数十分だ。
銀色の端末機器の画面をみてレガシィはターゲットの情報をおさらいした。
ニツワ上海。日本向けに出荷している菓子玩具のオマケとなるフィギュアやオモチャなどを作っている小さな会社だ。
値段の割にハイクオリティな出来を仕上げるので最近上昇株でとうとう大きな会社に吸収される。
しかし疑問なのが、ニツワ上海を買い取った親会社である。
ロゼッタセキュリティーコーポレーション――アメリカに本社を置くセキュリティー会社だ。
ヒエログリフなどを元にしたパソコンでは解析できない暗号システムを開発から、
軍隊に近しい警備員の育成も行っている、まさにピンからキリまで手を伸ばしたサービスが売りだ。
商売相手は各家庭から要人、そして国に至り、何を焦ってニツワ上海を買収したのかが全く見えない。
公式には拠点設置の為の土地買収が目的で会社まで買い取ったのはそこで働く社員達の面倒を最後まで見ると契約したからとか何とか偽善を言っていたが
レガシィには良心的なコメントが全部ウソで実際の狙いが自分であることは鼻から血が出る程判っていた。
ようするに、セキュリティ突破で有名な盗賊ハイパーレガシィを、そのセキュリティ会社は自分達の技術でとっ捕まえたくてしょうがないのである。
どれだけの宣伝効果になるのかは不明だがレガシィもそのパーティに参加しないわけにはいかない事情があった。
「反省しろよ……」
レガシィの持っていた銀色の端末機器にはスーツ姿の若い男の画像が映っていた。
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