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NOVEL 天使の顎 season2 ジュブナイル編
17 *流星群/StarRain*5
「さぁ〜! 風見チロル不調、牧原優勢だよ〜ッ!」

 ピンポン球が卓の上を行き来すること四桁あたり、いつの間にかその勝負に臨場して賭博場を開いているユマ。
 予想以上の売れ行きにてんやわんや動くも小銭が飛びウハウハ状態だ。
 どちらが勝っても懐暖まる具合に、両者均衡な賭け具合だ。
 当初は運動神経抜群のチロルの圧勝かと思われていたが、何故かピンポン玉はチロルのラバーをすり抜ける。
 ユマに関しては裂の仕業と見抜いているものの、ここはチロルの不調としておいたほうが勝負が見えなくなり面白い。
 即席の券を握り締め、遠目から見守る生徒たち。普段、抑圧された生活をしているだけあってこういうところは外しまくる生徒が多い。
 チロルが先行していた一点を裂が取り返す。チロルも裂も多々打ち合いにだけ没頭していた。

「今度こそ、今度こそ、僕の勝利です!」

「まだ終わっていないぞ!」

 裂の手からピンポン玉が浮かび上がる。
 そして、最後の勝負が始まる、そう思われた。

「はいは〜い、六時よ〜!」

 ダカダカダカッ!
 ドリ○も真っ青の総崩れ、ここまで揃うとむしろ気分がいい。
 庵慈の能天気な言葉は勝負に滝のような水を注し、話の腰も音を立ててへし折った。

「何? 儀式?」

 自分のやったことは理解できないのか倒れた生徒たちに楽しそうな視線を向ける。
 そんな中よろよろと立ち上がった裂。

「空気の読めない女め! 僕の華麗な勝利を邪魔しないでいただきたい!」

「あれ、まだやってたんだ」

 自分でたきつけておいて、まだやっていたとはご挨拶だ。

「とにかく、ご飯が先に決まってるの。ちゃっちゃと適当に勝負つけてくれる?
 そうね、時間無いから今の点数が高いほうの勝ち」

「ふん、どちらにせよ僕の勝ちでしたか」

「何を好き勝手言っている!」

 口を挟んだチロル。そして彼女にかけていた生徒たちも裂に同じような視線を向けた。

「では得点係くんに聞いてみればいいではないですか。はい、そこの銀髪。得点はどうだったんですか?」

「ん?」

 ソファーに座って背もたれに顎を凭れさせた衣鶴に生徒たちは目を向ける。
 今や、百円のコーヒー牛乳から始まった勝負は数十倍の規模になっていた。
 そして、衝撃的な結果が衣鶴の口から発表される。

「うーん。忘れちゃったぁ」

 再び総崩れ。
 広い室内の温度を2℃も上げた白熱の戦いは見事に幕をぶった切られた。

「じゃ、ご飯ね」

「わ〜い」

 庵慈の実に業務的な言葉に素直についてゆけたのは衣鶴のみで、昔懐かしのリアクションの衝撃に傷ついた若者一同はしばらく立ち上がることも敵わなかった。
 特に、ユマにいたってはそれはもうショックだったのか食事の席になかなか現れず、
 再度地下遊戯室を探しに行った庵慈が呆けていた彼女を発見したという酷い呆然具合だったという。
 こうして、一日目は無駄に終わっていった。



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