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NOVEL 天使の顎 season2 ジュブナイル編
11 *乙姫/dragon*6
 すっきりしたのはよくわかる。
 だが、明日はなんと言って話せばいいだろう。
 気がついたのは保健室のベッドの上だった。
 ただ、寝ていたのか、起きていたのか良く分からないが、たくさんな泣いていた。
 庵慈を探そうと上半身を起こすと、別の人影が見えた。窓際に、いつも庵慈が座っている椅子をよせて卓郎が腰をかけている。

「ヨォ」

「ぇあ、はい。卓郎さん、ここで何をやってるんですか……?」

 照れ隠しに先制攻撃で乙姫は尋ねると卓郎はにやりと良くないことを企むほうの笑みを浮かべた。

「デバガメ行為」

「…………え!?」

 はれた顔も気にせず裏声を上げて乙姫は怒ったような視線を投げかけた。
 だが、卓郎はにやにやと笑いながら窓の外を指差す。
 デバガメと言われて一緒にどこぞを覗くのはどうかと思うが、窓の外はいつもの校庭のはずだ。
 視線を校庭に向けて、乙姫は目を点にした。
 少しくらいが、見えないほどでもない。
 昼に絹夜と座ったベンチにチロルと祝詞が並んでいた。
 話し声までは聞こえないが、チロルの表情は別人のように豊かだ。
 腹を抱えて笑い、拗ねるように口を尖らせる。

「愛、だねえ」

「え、え、え!?」

 卓郎以上に身を乗り出して乙姫は我が目を疑った。

「そんなに面白い?」

 卓郎の問いに乙姫は思い切り肩を落とす。
 今までの自分のうやむやは全て、まるっきり、完全に杞憂だったのだ。
 あまりの脱力にもう一度寝込む乙姫。
 そこに、卓郎が同じ調子で話を続けた。

「絹夜君とNGとの協定が崩れた」

「!?」

 目を見開いた乙姫はすぐさま起き上がろうとするが、まだ同じような調子で卓郎が言う。

「でも、結局、NGは絹夜君に手を出せないから、気長に彼の性格が丸くなるのを待ってる、と。
 ま、状況的には振り出しに戻っったってわけで、後は君がどう絹夜君に作用するかを期待しているよ」

「わ、わ、わたッ、私がッ、ですか!?」

 とうとう跳ね起きて大声を上げる乙姫に卓郎は理由もなく大笑いをかました。
 あまりに屈託なく笑うのが逆に悪意を感じる。
 提携はとらなくなったにしろ、あまり気に病むな。そういいたいのはわかるが、何だ、その大笑いは。
 さすがの乙姫も大暴れした後ついでにヘッドホンを取り外して卓郎に投げつけた。

           *                   *                    *

「絹夜きゅ〜ん」

「…………」

 すっかり調子を取り戻して庵慈が声をかけてきた。
 彼女にしては珍しく、校門の柱に背を預けている。

「今度はどんなくだらない話なんだ」

 月下で微笑む赤毛の魔女は妖艶で、しかし、人を小馬鹿にしたあどけなさもある。
 庵慈は口元に手をあててベンチを指差した。チロルと祝詞が実の無い話をしているのだろう、時折、笑い声が響く。

「仲、いいわよね〜、ウラヤマシー」

「……で?」

「ヤダン、露骨に怒らないでよ」

 庵慈が絹夜の両肩に手を置いて、大真面目な顔をして歌った。

「♪今日が、私の〜失恋記念日〜」

「年がバレるからやめておけ」

「失恋記念日おめでとう。ケーキがいい? それともお赤飯?」

「誰のだ、誰の!」

 声を荒げて庵慈の襟首を掴む絹夜。

「図星だからってそんなに荒れなくてもいいじゃない。先生、悲しい〜! わきゅう」

 本格的に首を絞めて庵慈を黙らせる。
 腕を叩いてギブアップするまで絹夜は力を抜かなかった。

「NGとは手を切った。奴らとは別に動く」

「ふうん、その言い方だと、敵対はしていないようね。ちょっぴり残念だわ」

「NGが都合悪いのか?」

「ううん、絹夜君と、私で〜、手と手をとって愛の逃避行〜ってわけにはいかないみたいだから。
 いいのよ、絹夜君には、先生がずっといてあ・げ・る」

 大げさな身振り手振りをして一人盛り上がる庵慈の目の前を通り、絹夜は校門をくぐった。

「あー、もう! つれない〜! もうちょっと構ってくれてもいいじゃない〜!」

 学園からは出ようしない庵慈にくたくたと後ろ手をふる。

「今日は閉店だ。またな」






















  <続く>




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あきゅろす。
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