NOVEL 天使の顎 season2 ジュブナイル編
24 *復活/Revive*5
「バカか、あいつら」
裂の的を射た一言が痛い。
屋上から空を眺めつつも、爆音と共になぎ倒れる校門前あたりの木々が視界に入ると気分は一気に陰鬱になった。
「バカなのはわかってます」
一種堪忍袋の緒が切れた乙姫はあっさり認めて、絹夜対字利家で森林破壊が進むさまを見た。
何が原因かはさておき、字利家が絹夜に敗れることもなければ、彼女が絹夜をボロボロにしてしまう可能性も低い。
「まあ、いいでしょう。非常識な連中ばかりではまとまりもなさそうですし」
「…………」
「なんですか、その複雑そうな表情は」
「なんでもないです」
「まあ、適当に法皇庁のエージェントとやらをかまいにいってさしあげます。
もし、共倒れになって黒金か字利家が倒れたらトドメをさし、敵が敗れるならトドメをさしますが」
「…………」
「だから、なんですか、その複雑そうな表情は」
「なんでもないです」
次に乙姫はユマと話をつけようとするが、放課後になるとすぐさま返ってしまうのか教室にはいない。
同じ階の美術室へと足を向け、衣鶴を探したが彼も消えていた。
あとは、庵慈と秋水だ。
いつも保健室にいる庵慈より、仕事をし終えると帰ってしまう秋水を先にして、乙姫は購買に向かった。
「おう、嬢ちゃん」
いつもの購買にはさっそくトランクをたたんでいる秋水と、今まで探していたユマと衣鶴がそろっていた。
「あ、皆さんここにいたんですね」
「聞けよー、乙姫ー! 新しく来た英語の石川ってヤツがよー!」
「?」
どうやら、ユマと衣鶴の所属する三年のクラスに新任の臨時教師がきたらしい。
「んで、そいつ、女子だけにデレデレしくさりやがって!! むっかつくのなんのって!」
「でも、先輩も女の子じゃないですか」
「ムギュラギャオアー!!」
「!?」
得体の知れない咆哮を上げ、ユマは綺麗にセットされたお団子頭をかきむしった。
もう人間の言葉がしゃべれないのか、奇声を発して息を絶え絶えになる。
「子供扱いされたんだとよ」
代わって秋水が説明すると、衣鶴はぷっと噴出した。
「わあははははははは」
「笑ってんじゃねぇよ!」
ユマが衣鶴にとび蹴りをかます。
「あがッ」
衣鶴の首が不自然な方向に曲がったが、秋水は平気な顔をしているので乙姫も黙ってそれに習った。
どうやらユマはそのときの鬱憤を放つために衣鶴を巻き込み、秋水を巻き込みここにいたるらしい。
「んでな」
秋水が話を進めた。
「その石川ってやつだが、庵慈情報によるとどうやら法皇庁のエージェントで、驚くなかれ、黒金絹夜の兄らしい」
「……ヨハネ!?」
「いや、その下。黒金家は男四人兄弟らしいからな。次男の雛彦ってヤツだ。それから、もう一人いるはずなんだが、そっちはまだわからねぇ」
「絹夜くんの……お兄さん? あの、字利家くん情報だと、信用ならないかもしれないんですけど」
「うん、信用ならないけど?」
「胡散臭い転入生が来てるって」
「字利家以上に胡散臭いのか!?」
「…………」
本日二度目の同じリアクションに乙姫は苦笑し、頷いた。
信用ないのも彼女の個性なのかもしれない。そう思わなければやっていけそうになかった。
「おい、栗の嬢ちゃん」
「栗の禁止ッ!!」
「…………。石川雛彦をぶちのめすチャンスだぜ。敵さんは俺たちの特技が大人数で袋叩きだってことを知らないらしい」
「くっくっく、いい趣味だな、購買員!」
ぎらりと目を光らせるユマ。
仕事人の目だ。13の目だ。
「衣鶴先輩はどうします?」
「え? めんどっちぃ……。んー、でも法皇庁でしょー? 庵慈先生がなぁ。ちょっと相談してくる」
「え、あ、はい」
もともと歯切れの悪い衣鶴だが、今回はさらにうやむやだった。
答えるところは答える、という彼だったが、何か迷うように、戸惑うようでもある。
深入りしてはいけないのだろう。
気にしないようにして乙姫は無難な返事を返した。
「決まりだな。字利家戦はなんつか、後味悪かったから今回はびしっとキメるか」
「ウギャー!」
盛り上がる一方で不安が込みあがる乙姫。
本当にこのまま戦うのだろうか。
彼らを置いていくようで恐ろしい。
* * *
足首からジッパーをあげてひざ上までラバーソックスを持ち上げる。
足にローラーをセットして、固定しする。
フリルが盛大についた黒いミニスカートにシャツ、白のネクタイを締めて大きめなウエスタンハットを目深にかぶる。
腰にはミニサイズのキーボード、ワイヤーガン。
「……祝詞……」
弱く、今は会えない人の名を呼ぶ。
彼がいないとどうしても弱くなってしまう自分が情けない。
「祝詞、私は……”チロル”は、頑張るよ……」
きっ、と見上げる正面。
青い双眼。はねた金髪。
そして唱える、覚悟の呪文。
「ALL OR NOTHING!」
――掴むのはどっちだ。
<続く>
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