NOVEL 天使の顎 season1 宇宙戦争編
Last session *LE GRAND BLUE*C
もちろん、護衛軍がスカウトしたのは解放軍の面々だけではない。
有能な元地球軍のパイロットもその範疇に入っていた。
「…………」
新任の司令官長と教官に顔を合わせることなり、カルヴィンはその場で顔面のパーツを全部落としそうなほど表情を引きつらせた。
司令官長室の椅子にどっかりと座った隻眼の青年は間違いない、ユーバー・フォン=レーベンクロイツ。
SSの三段笑い青年だ。眼帯に右腕の銀の義手、カチっと着こなした濃紺の軍服にカルヴィンは倒れそうになる。
さらに、その横には緑の髪を刈り上げた細身のなよなよした男、翡翠が眼鏡の端を持ち上げて笑っていた。
「ははははは、よろしくお願いしますよ、スポンサー殿!」
この登場は完全に嫌がらせのタイミングを計っていたのだろう。
というか、スペシャルにこの冗談のようで洒落にならないやり方はラッセルや卓郎を彷彿とさせた。
いや、自分はまだいいほうだ。
ギオはユーバーの部下になるのだ。これを知ったら鼻から脳漿たらしても仕方が無い。
「お前、司令部に動いたのか」
大変な大怪我だったのは情報としてアンジェラから聞かされていた。
だが、それを乗り越えて司令官として戦い続けようというその意志はさすがラッセルの部下である。
その強固なSSの誇りが受け継がれていること。ラッセルはそこにまだ生きている。
「マロンちゃん、二年も勉強しなおしたもんね」
二年……。
というと、彼が怪我を負ってからすぐに切り替えがあったことになる。
挫折もあっただろうに、よくそこで諦めなかった。
あの白銀の男の意志を継ぐものはやはりあの男のように前だけを向いて進軍するのだろう。
悪魔のような司令官になりそうだ。
だからこそいい司令官なのだ。
「これからは共闘の時代ですよ。自分たちでまず動く。それを実践してこそ護衛軍として役割を果たせるんですから」
ユーバーの言葉に共感を得てカルヴィンは頷いた。
これからは現実を見る時代なのだ。
「さて、では軍の方針についてだが……」
さあ、魔術を始めよう。
時間をかけた魔法陣が組みあがる。その名は”運命機構”。
人間の、ただの努力だけで作用する最強の魔法だ。
人は誰でも運命を捻じ曲げる力を持っている。それを時間圧縮して故意に使用するのと一生懸命努力するのでは変わりは無い。
紛れもなく、彼らの運命を捻じ曲げる魔術が作用した。生きること自体が世界を変える魔術。あらゆる命の魔方陣の中で最も強い力を放った。
その輝きは誰もが忘れた単純なもの。人間の、本能。愛し慈しみたいと希う望み――希望。
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