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NOVEL 天使の顎 season1 宇宙戦争編
Last session *LE GRAND BLUE*A
 時は2201年。
 新たな時代を向かえ、人々の心にも余裕が出始め、希望の陰影がはっきりと見えた時代だった。
 戦争により、一度は踏破された地球軍だったが、治安維持のためにも新たにその組織を組みなおし地球護衛軍として名前を変えることになる。
 ようは警察の管理下から始まる小さな組織だが、中身はパイロットなど、宇宙開発になくてはならない人員の育成を少しずつではあるが行っていゆく組織だ。
 それが基地を構え正式に活動を始める春の日、カリフォルニアのモントレーでは護衛軍の開設式典が行われる。
 濃紺の制服に身を包んだ軍人たち。整列し、規律正しく並ぶ新星のパイロットの中に、ギオの姿もあった。
 だが、今にも眠りこけてしまいそうな彼だけが浮いている。
 確かに、責任者である政治家の話が長い。祝辞なんてどうでもいい。
 何度目か解らない欠伸をぶっこいてギオは意識を半分眠らせた。
 立っているだけでいいのだ、だったら半分くらい寝ていても平気だろう。
 どうにもこの濃紺の波がリラックスしてしまうのだ。
 意識がぶっ飛びかけた、次の瞬間、彼は眠ってはいられなくなった。
 管理人の祝辞が終わり、次に壇上に登場したのは見覚えのある姿だったのだ。
 そして、それはにやり、と悪魔のように歯を見せて笑うと、いきなり名指しで注意した。

「ギオ・ディップウルフ!!」

「……艦長……」

 落ち着いた色のスーツが似合っていないカルヴィン。
 だが、これが彼の本職になってしまったのだ。

「俺の前でフナこくんじゃねぇぞ、ギオ……」

「はい…………」

 解放軍解散の後、一度は第二デブリベースに戻ったシェスタニエ親子だったが、
 カルヴィンがしつこく政治面で召集をかけられたため、とうとう地球に居つくことになった。
 だが、政治家たちもそこを見逃すはずもなく、カルヴィンはジャーナリストとして政治に片足を突っ込んでいる。
 ここの責任者の一人として名前が挙がっているのだ。
 ここにスカウトされたのはギオだけでない。
 解放軍の面々はほとんどがここに身を置いている。
 教官として配属されたフラウもその一人だ。
 カルヴィンの似合わないクソ真面目な祝辞を聞きつつ、ギオは溜め息をこぼす。
 これだけ人数がいては”俺、かっこいいパイロット計画”が困難極めそうだ。
 残りの祝辞も全起きの状態で聞き流し、なんとかギオは乗り越えた。
 解放され、やっとの思いで屋上にでるとさっきまで壇上で念仏上げていたカルヴィンとフラウがそろってやってくる。
 恐らく、つけられていたのだろう。
 フェンスに背を預けながらギオは二人を迎えた。

「来るなら来るって言ってくれたら俺だって起きるんよ?」

 いきなり言い訳をするあたり確信犯である。

「お前はよくよく柴に似てきたな……悪い影響だ」

 カルヴィンの言葉には嫌味と、郷愁がこもっていた。
 柴卓郎……。

「あれから……二年か……」

 すぐにでもまたひょっこり現れるかと思った死神は誰の前にも姿を現さなかった。
 彼は今、どうしているのだろう。
 また、別の世界で”イエス・キリスト”との戦いを始めているのだろうか。

「フラウはこんなとこで教官に落ち着いてていいの?」

 ギオの問いにフラウは簡単に頷いた。
 二年経て、大人びた雰囲気を持った妙齢の淑女になった彼女は実家のあとを継ぎながらパイロットの育成に励むという選択をしたのだ。

「どうしてカオと香港に行かなかったんだよ〜」

「ついていって何になるの? 料理人の修行に女がついていって意味があるなら考えたけど」

「渋〜……」

 あれから皆がそれぞれの道を行った。
 トリコは”国境なき医師団”に戻り、現在はドイツで宇宙空間の医療について研究に励む一方、子供向けの絵本なんかも書いている。
 バリバリと働くことで有名だが、未だに結婚の報告は無い。
 たまにギオやフラウにメールをよこすが「軍の医療設備や備品を流せ」という脅迫めいた内容が多い。
 一体何を考えているのやら、彼女は本気で医学業界を乗っ取るつもりだ。
 マディソンはしばらくは解放軍と行動を共にしたがさすがに部下たちがかぎつけ、強制連行されていった。
 ただ、彼もまだまだ遊び足りないようで護衛軍に乗りこみ、未だに勝手に機械をいじっている。
 ギオは彼の老後の面倒を見るのは自分じゃないのかと心配をし始めているが彼の老後とはいつになるのやら。
 ついでにリサもおまけのようについてくるのでカルヴィンともども最高責任者に頭を下げっぱなしだ。
 ジェラードはというと、武器商人を続けている。
 あの人は裏の世界に戻っていったのだ。連絡は取れるが格段に返事が返ってこない。
 三ヶ月に一度ほど、仲間の誰か一人に生存報告が届くか届かないかだ。
 問題なのはモブで、彼は完全に音信不通である。
 トリコから「パリのテディベア専門店でショーウィンドウにはりついていた」という報告はあったがそれが本人かは定かではない。
 そして……。

「あんたこそ、よくアンジェラのところから離れてきたわね」

 フラウのおちょくりにギオは真剣に腕を組んで悩む。

「俺としたことがちょっとカッコ付けすぎたかな……。いや、でも、俺はパイロットになるって決めちゃったからな……」

「アンジェラ、どこに腰落ち着けたんだ?」

 カルヴィンには情報は届いていなかったらしく、フラウは、ああ、と納得して肩をすくめた。

「先輩、随分転々としてましたから。今、シンガポールにいます」

「シンガポール!? また微妙な位置だな……」

「でも、そこに落ち着いたみたいです」

 フラウが手帳から写真を取り出す。
 カルヴィンがそれを受け取ってギオも後ろから覗き込んだ。

「うわー……、頭悪いな、こいつ」

 早朝か深夜を狙ったのか、薄暗い写真にはマーライオンの背に乗ってピースサインをしているアンジェラが写っていた。
 見つかったら罰金ものだ。

「やるなあ、アンジェラ。じゃあ俺は今度リンカーンの像に鼻毛書いてやろうかな」

「やめろ!!」

 ギオならやりかねない。
 カルヴィンは血相をかかえた。そんなバカなことを自分の知り合いだと思うと恥ずかしい。
 現にアンジェラのバカ写真だけでも十分恥ずかしくなった。

「先輩、大所帯で毎日大変そうですよ。メールの返事はすぐに返ってきますけど」

「ああ、意外だったな……」

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あきゅろす。
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