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NOVEL 天使の顎 season1 宇宙戦争編
session 16 *恋は焦らず*B
「…………んー?」

 頭をひねる。

「んー……」

 もっとひねる。

「んー!」

 パチン、と小気味いい音を立ててアンジェラは将棋盤の端にあった龍王を動かし、王将に寄せる。

「やったー、王手!」

「何やってんだい?」

 アンジェラが一人残された将棋盤で遊んでいるところにジェラードが顔を出す。
 巨体なわりに気配は静かでジェラードの接近に気がついていなかったアンジェラは悲鳴を飲み込んだ。

「う、ああ! これ? 将棋よ。チェスみたいなもん。複雑なオセロ?」

「? ふうん。あんた、そんなことより、あんた」

「ん?」

「地球軍のSS隊がとうとうLv3コロニーまで出てきたらしい。最終決戦ってやつだよ」

「SS隊?」

 間抜けな声を上げるアンジェラ。ジェラードは眩暈がしたかのように天を仰いで目元に手を当てた。
 本当に欠陥箇所の多い脳みそだ。

「SS隊ってのは、地球軍最強の戦闘集団だ。
 マグダリアのペーペーパイロットが何人束になっても連中とまともにやりあうのは危険すぎるよ。
 向こうも人数が大勢いるってわけじゃないらしいけど、絶対数で攻めてくる。
 空間地雷をたっぷり入荷させてもらったけど、どうにも足りてないよ」

「ギオにまた暴走させるわけにいかないもんねー」

「……あんた、ちょっとそれを望んでんじゃないかい?
 確かにあれは反則並みの兵器だけど、プリマテリアとの過剰なシンクロは危険らしいからね」

「うっそ、聞いたこと無いし」

「確かねぇ……」

 ジェラードが可愛らしく小首をかしげたところだった。

「プリマテリアには人間が一方的に介入しとるんではない。
 プリマテリアの方から人間の感情に介入していることがつい最近発表されたんじゃ。それも地球軍の研究でな」

「お、おっちゃん、将棋盤、かたしてよ」

 アンジェラの注意を無視してマディソンが例の如く笑った。

「クフォッフォッフォ、今日はそのことについてパイロット諸君に話があるのじゃ!」

 言ってるそばから放送が流れパイロットが艦内に集合する。
 数分もすれば、フラウ、カルヴィン、ギオがやってきて、おまけにカオ、ミリィとリサもそこに集まった。

「…………」

 モブがいない。

「…………」

 マイペースなのはいいが、とりあえず足並みはそろえてもらいたい。

「…………あーもー! あの野郎!!」

 再来するアマゾネスドラをなだめながら。ギオが突然に挙手をした。

「はい! ハイ!」

「…………」

 特に誰も反応しないので艦長カルヴィンが取り仕切ってギオを指す。

「なんだ、そこの青いの」

「色で差別すんなよ、国際協議会の中心で人種差別について叫ぶぞ」

 ギオの深いようであまり意味を成していない言葉に冷たい視線が向けられる。
 その間にアンジェラが場を乗っ取った。

「テディなベアが好きなあいつだったらテディをここに用意すればいいじゃない!」

「あ、それ俺が言おうと思った!」

 ギオの訴えを確認してからリサが絶妙なタイミングではっきりと言う。

「頭ワルー」

「リサ、思っても言わないのが優しさだぞ」

「はぁい」

 親子ならではの二段アタックにアンジェラとギオは互いを指して笑うことにした。
 悲しいだけだと気がつくにはそう時間はかからない。

「そうね、頭悪い! 簡単にぬいぐるみなんて出てくるんなら話早いわよ!」

 アンジェラが歩いていった先には、子供たちが遊んだ後に残していった紙とクレヨンだ。

「絵を書けばいいんだわ」

「パパ、やっとサルから原始人に進化したよ」

「こら、リサ! 優しさ! ヤサシサ!」

 とうにシェスタニエ親子の言葉を無視してアンジェラは紙になにやら描いていく。
 数十秒としないうちに完成したのかそれを裏返すと、並んだ仲間たちに披露した。

「じゃーん! かわいいでしょ」

「…………」

「感想は?」

「え?」

 感想など言える代物では無い。
 話の流れからして、テディベア、つまり、クマを描いたつもりらしいが、それ以外の何かに見えた。
 ある者にはヤカン、ある者には潰れたヒキガエル、ある者には洗濯物を干す時の絡まった衣類を連想した。

「なんつーか……二度とやるな」

 率直な感想を述べたギオに賛同して皆が頷く。
 もっと言いたいことはあるが、彼女の名誉もあるだろう。
 なので必要最低限だけを伝えた。それが先の言葉だ。

「え? 近くない?」

「約四万キロくらい遠いかな」

「地球一周できるじゃない。一回転して、結構近いかも」

 アンジェラの詭弁に付き合っている時間がもったいない。
 カルヴィンはカオに言って部屋まで呼びにいくように命じた。
 これ以上菌をばら撒かれると困るのでカオはデッキで病気が蔓延しないうちにと走り出す。

「あ、私もいきます!」

「クフォッフォフォ、仲がよいのう!」

「ち、違います!!」

 マディソンにからかわれながらもカオについていくフラウ。
 走りながら顔が視線を向けると言い訳がましくフラウは口を尖らせた。

「違いますからね!」

「何が?」

「ただ、部屋にいなかった場合はさらに捜すことになるじゃないですか、だから、だからです!」

「? はあ」

 とりあえず納得したことにしてカオは艦内の辺境ブロックにあるモブの部屋に押しかけた。
 とにかくノックをするが反応は無い。
 嫌がらせのように連撃を叩き込んでも返事はなかった。

「いないのかな」

「他となると、食堂や、トレーニングルームなんかも考えられますね。そこを回ったらデッキに戻りましょう」

 話がまとまったところで今更ながら部屋のドアが開く。

「…………。うるさい」

「も、モブさん!?」

 眠っていたのか半目をこすってぶつぶつと喋るモブ。だが、問題は彼の寝癖だ。
 もはや寝癖と言うのだろうか。
 二倍、三倍に広がった髪の毛は大爆発の後のようだ。

「なんか、頭すっごいですよ……!?」

「…………。うー」

 両手で頭をかばうモブ。
 直す暇も無いと言うと、部屋の置くからニット帽を引っ張りだし、目深にかぶった。
 それでも帽子が髪をかばいきれず、両側がふっくらしている。

「モブベア」

 珍しくフラウが発したくだらない言葉にこれも珍しくカオとモブが目を丸くする。
 急いでいることも忘れ、三人は数分呆けていた。

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あきゅろす。
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