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NOVEL 天使の顎 season1 宇宙戦争編
session 15 *沈める鐘*D
 一方その頃、アンジェラに省かれたギオは食堂に足を向けていた。

「じゃあ、これが、あんたのだね」

「…………」

 なにやら大きな包みをジェラードから受け取っているモブ。
 子供一人入りそうな塊は120%テディベアだ。
 その証拠か、耳のあたりがもりあがっている。

「いわゆる、心の病か?」

 遠目で観察する分にはいいのだが、世にも奇妙な取り合わせで可愛い趣味をしているモブは話しかけにくい。
 黙って座っていれば十分もてそうでギオからしたらうらやましい限りだが、どうにもそのマニアっぷりも度が過ぎて引かれている、そう思っていた。
 が。

「…………は?」

 ギオはその包みに綺麗なラッピングがかかっていることに気がついた。
 もしかして、もしかすると。
 どたばたとギオはジェラードを捕まえてコソコソと事情を聞きだした。

「ちょっと、あれなんだよ!!」

「プレゼント? あいつはマニアだからね」

「誰から!?」

「お客の個人情報はいえないよ」

「女か!? 俺を差し置いて!?」

 差し置かれるのも当然だろう、とジェラードは一瞬思って、それを言うのはあまりにかわいそうなのでただ頷く。

「クソ、あの乙女チックな無駄美形! 萌え〜!」

「なんだって?」

 呪詛の念、っぽいものを送りつつギオは嫉妬をあらわにする。
 今にも飛び掛らんばかりの勢いのギオをなだめなくてはならい気もするが、今は仕事だ。
 もう一つの荷をフラウの元に届けなければならない。
 ジェラードは腕を組む。

「やれやれ、だね」

 ギオは無視することにした。
 早速フラウの部屋に向かうジェラード。
 この艦内をぶらつくのもそろそろ考えなければ巻き込まれてしまうかもしれない。
 そんな雰囲気を感じつつ、ジェラードはどこで手を引くか考えていた。
 もうすぐ、武器弾薬の大量購入があるだろう。
 そのときには……。
 計算をしつつ、フラウの部屋のドアを叩く。

「はい」

 返事の前にドアが開いてフラウが顔を出した。

「例の」

 といってジェラードが差し出すと、フラウがそそくさと受け取る。

「あ、ありがとう」

「…………」

「どうか、しましたか?」

「……いや、なんでもないよ。じゃあ、アタシはいくよ」

「はい、ご苦労様です」

 背を向ける。
 歩き出す。
 フラウの部屋のドアが閉まる音を聞いてジェラードは足を止めた。

「…………」

 フラウの顔を見た途端、計算式が吹っ飛んでしまった。
 そして、未だに商売のことを考えている自分が恥ずかしくなる。

「…………いいのかねぇ」

 口から出た言葉に心の中では反論する。
 自分はパイロットでも整備士でもない。武器商人だ。
 しかし、フラウのような女の子がその最前線で戦っていると思うといたたまれなくなってしまう。
 自分にも何か、出来るはずだ。何か。

「…………」

 武器を売ることしか見つからない。
 なんだかなぁ。
 やるせない気持ちになってジェラードは再び歩き出した。
 自分が出来ることは、武器を運ぶことだ。
 そして、そのつれない現実を受け止めるだけだ。
 それも強い決心の一つ。
 強い覚悟の一部。

                     *             *            *

 ソナタを奏でるが如く優雅な動きでキーを叩く。
 銀の眼球はレンズ越しにあらゆる記号を追った。
 指が勝手に紡ぎ上げる呪文。
 度々叩くEnterキーで印を結ぶ。
 築きあげてゆくテキストの魔方陣。文字はただ発生し、並んでいく。
 魔術師の脳、それを元手に構成された最強魔術。
 それを破壊すべく、彼は生まれた。
 その指が奏でるロジックはこの世にあらゆる言い訳をするためのもの。
 再構築、再構築、再構築。

「…………ッ」

 自分の身体を再構築する。
 すでにその身体で二百年、戦い続けていた。
 指が動かなくなる前に再構築をしなければ自分も消し飛んでしまう。
 私のように。
 自分の肉体を新たなロジックとシステムで固めて、彼は蘇る。
 この世にハッキングしている卓郎の身体を正常な、自然の摂理が、バグとして彼を排除しようとしていた。
 そうはいかない。
 破壊するまで、コンピュータウィルスは消えてはならない。
 神を破壊するまで。

 我らは否定をする者。
 それが神の栄光だろうと。
 信じるものは己の努力のみ。
 正義も悪も踏破して我らは否定をし続ける。そうして肯定し続ける。
 それが神の栄光だろうと。





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